研究実績の概要 |
地球上に存在する全ての生物は生息する環境に適応するようにその形態や生理機能を変化させてきた。なかでも特徴的なものは、鳥類にみられる羽毛や植物にみられる花弁といった、進化的に新規な形質(以下、進化的新規形質と記す)の獲得である。進化的新規形質の獲得メカニズムについては、その多くが単一事象の変化ではなく、複数の形質の変化や転用によってもたらされると考えられている。この際の進化的新規形質の獲得、形成に転用される形質の、その転用される以前の状態や機能、またその転用されるプロセスを“前適応”といい、進化学上における重要な概念となっている。しかし、これまでの前適応に関する研究は理論的、生物哲学的なものが多く、前適応の具体的な分子メカニズムについては不明な点が多く残されている。本研究課題では、真骨魚類心臓にみられる進化的新規形質“動脈球”の進化と発生に着目することで、前適応の分子メカニズムの詳細に迫ることを目的とした。 本年度ではまず、ゼブラフィッシュ胚動脈球において発現する因子の探索をおこなった。その結果、ltbp3 (latent TGF-b binding protein 3), fibulin5, itga8 (intern alpha-8), rgs5a (regulator of G-protein signaling 5a)などを候補因子として同定した。ltbp3についてはアンチセンスモルフォリノオリゴ(MO)によるノックダウン実験もおこない、その結果動脈球において異所的に心筋が形成されることを見出した。この結果から、ltbp3がelastin bの重合に必要であることを示唆している。他の因子についても、MOによるノックダウン、またCRISPR/Cas9によるノックアウトによって機能阻害実験を進めている。
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