研究課題/領域番号 |
20K06779
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
吉田 尊雄 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋生物環境影響研究センター), 主任研究員 (60399566)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞内共生 / 共生者の獲得 / 共生の維持 |
研究実績の概要 |
本研究では、①共生系の維持とそれに関与する共生菌からの有機物を得るための相互作用について、及び、②その分子メカニズムを解明すること目標としている。 今年度は、①を中心に実施した。シンカイヒバリガイから切り出したエラや個体に、蛍光ラベした微生物(大腸菌、ビブリオ菌、エラから抽出した共生菌)及び蛍光蛋白質GFPを発現させた大腸菌を海水に加え、しばらく放置すると、これら微生物は、エラ細胞内に多く局在することがわかった。蛍光及び電子顕微鏡観察などから、食作用により微生物が取り込まれる様子が見られ、細胞内に取り込まれた微生物は食胞に内包され、速やかにリソソームと融合して消化されることがわかった。この現象は、用いた微生物の種類に関係なく、起こっていた。また、エラ細胞で多く食作用が起こっていることを見出した。一方で、エラ細胞内に存在する共生菌は、宿主由来の膜に内包され分解されないで存在することを明らかにした。 これらの結果は、エラ細胞は、食作用により共生菌を取り込んで獲得している可能性を示唆する。食作用の際には、微生物を選択することなく、取り込み、細胞内で共生菌とその他の微生物を選択している可能性がある。食作用で取り込まれた共生菌は、リソソーム融合されることなく、エラ細胞内に維持され、メタンから有機物を合成し、宿主である二枚貝に供給していると思われた。そこで②として、飼育により共生菌の共生菌が消失した個体と採取直後の共生菌を持つ個体を用いて、共生菌が局在する鰓組織の宿主と共生菌の遺伝子発現を調べるために、トランスクリプトーム解析を実施した。得られたシーケンスデータを解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蛍光ラベルした微生物を用いた実験から宿主のエラ細胞に食作用があり、外来の微生物を細胞内に取り込む現象を見出すことができ、当初の予定どおりに進めることができた。また、飼育により共生菌が消失した個体を得ることができたので、採取直後の共生菌を持つ個体とともに、宿主と共生菌の同時トランスクリプトーム解析に着手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
蛍光ラベルした微生物を用いることで、エラ細胞の食作用により外部の微生物を細胞内に取り込んでいる可能性を見いだせた。しかし、微生物は蛍光ラベルにより固定化しているために死んでしまっているが、生きた大腸菌も食作用により取り込まれているために、取り込み段階では、微生物の生死や種類に関係なく、宿主は微生物を選別していないと考えられる。微生物は、食作用により細胞内に取り込まれた後に選別されて、取り込まれた共生菌は消化されずに維持される仕組みがあると考えている。共生菌は単離培養できておらず、また、共生菌を維持したままの飼育が難しいために、生きた共生菌を用いた実験を実施したいが断念する。そこで、宿主と共生菌の同時トランスクリプトーム解析を中心にして研究を進めてゆくことにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
飼育実験の一部を変更したために、用いる試薬消耗品類などの購入を見合わせた。次年度実験の進捗を考慮しながら、購入することにする。
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