研究実績の概要 |
研究期間内に行った間隙性動物に関する研究成果は3報の論文として公表され、2種の扁形動物と6種の紐形動物を新種記載した。石狩浜で得られたネマトプラーナ属の一種についてミトコンドリアゲノムを決定した研究は、環境DNAを増幅する特異的プライマー設計を行うための布石であった。その一方でこれは原順列類としてミトコンドリアゲノム配列が決定された最初の報告であったことから、そのゲノム構造と扁形動物門内における遺伝子進化について考察を行った。アデノシン三リン酸 (ATP) 合成酵素 F0 サブユニット 8 遺伝子 (atp8) は、2010 年代後半まで、扁形動物のミトコンドリアゲノムには存在しないと考えられていたが、それ以来、複数の新たな証拠により、この遺伝子は高度に派生的な形で扁形動物門内の複数の下位分類群において存在することが示唆されている。ネマトプラーナ属の一種におけるミトコンドリアゲノムは16,106 bp(ただし、未解決の非コードタンデムリピートを考慮すると、潜在的に18,812~19,277 bp)で構成され、38 個の遺伝子が含まれていた。 標準的な自動的手順ではatp8はアノテーションされず、手動による詳細な検証によってはじめて検出された。 翻訳された産物がアミノ酸をコードする場合、それは156 bpで構成され、後生動物の標準的なMPQLではなくMPHVで始まる52 アミノ酸残基の産物から成ることが予測された。本研究は、atp8が扁形動物のミトコンドリアゲノムのグランドパターンを構成するという仮説を裏付けるように見えるが、扁形動物の推定上のatp8が実際に転写および翻訳されて機能的なATP合成酵素F0サブユニット蛋白質を形成するかどうかは、今後の研究で検証される必要がある。
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