研究課題/領域番号 |
20K06783
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西田 佐知子 名古屋大学, 博物館, 准教授 (10311490)
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研究分担者 |
高野 温子 兵庫県立人と自然の博物館, その他部局等, 研究員(移行) (20344385)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 繁殖干渉 / 雑種化 / 植物 / 生物多様性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、水面下で雑種化などが進み植物の多様性が減っていく状況に、最近注目され始めた繁殖干渉という種間相互作用が関与している可能性を明らかにすることである。繁殖干渉とは、近縁な生物同士が間違って交配に関わる結果、子孫が減ってしまう現象を指す。本研究では近縁種同士の植物が、この繁殖干渉がかかわっている可能性が高いはずなのに共存しているという状況がある場合に注目する。そして、表面上は負の相互作用が見られないこうした近縁種同士の植物で、実際は雑種化や有性生殖の衰退が起きている現状を可視化し、その変化に繁殖干渉が関与している可能性を検証する。 本来の計画では、2022年度は2020-2021年度に実施できなかった、近縁種が同所にある個体群と付近に近縁種がない個体群を選定し、分布調査を行う予定であった。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大状況が2022年度も続いてしまったため、これらの調査が行えなかった。 そこで新規の植物個体群の選定や新たな分布調査は断念し、2022年度は、これまで研究してきた植物のうち、雑種化を起こしている植物について、現地での生態調査と遺伝子解析を実行した。 具体的には、タムラソウ属植物で近縁の2種が分布している場所へ研究分担者とともに赴き、現在の分布状況と相互作用の可能性を調査した。その結果、現在は相互作用が起きづらい状況に環境が改変していた事態を確認した。また、過去に採集したこの2種のサンプルを使い、研究協力者の協力を仰いで、ゲノムワイドな塩基多型解析を行った。その結果、過去の雑種化の可能性を示す結果などを得ることができた。これらの結果を元に論文草稿を執筆し、共同研究者に確認作業を依頼するところまでに至った。 一方、2020年度から繁殖干渉を起こしている可能性の高い植物として注目しはじめたクワガタソウ属については、昨年度に続き人工授粉実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度も新型コロナウィルスの感染拡大状況が続いたため、本来計画していた遠方の植物についての調査は行えなかった。しかし、これまでデータを積み上げてきたタムラソウ属の研究対象植物の現地調査を実行することはできた。さらに、遺伝子解析について多くの解析結果を得ることができた。 論文については、2022年度中に発表までは至らなかったが、草稿はすでに書き終え、共同研究者との確認作業まで至ることができた。 またクワガタソウ属植物については、今後の研究で重要となる実験を、栽培個体を多数使うことによって2021年度から継続して行うことができた。 以上を鑑みると、おおむね順調に進展していると言えると考える。
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今後の研究の推進方策 |
コロナの感染状況について不確定要素が多いまま研究機関の半ばが過ぎたため、研究対象としての新規の植物の開拓に重きは置かないことにする(しかし、研究を開始する余地があるかぎり、探索は続ける)。 一方、これまでサンプルや予備データを取得してきた植物や近郊に生育する植物に研究対象としての重心をより移すことにより、申請時に計画していたことに匹敵する質の高い研究を目指す。 具体的には、タムラソウ属植物については2020年度からの実験調査・遺伝子解析のデータを総括し、論文化を目指す。さらに、これまで研究分担者を中心に集積してきたサンプルを用いて遺伝的多様性の解析を行い、繁殖干渉と遺伝的多様性の関係について新たな知見を得ることを目指す。 また、2020年度から注目し2021年度から実験などを本格的に始めているクワガタソウ属植物、および、文献調査や予備調査などから繁殖干渉の可能性を見出したセンダングサ属・ツリフネソウ属植物などにも注目し、可能な範囲で野外での生態調査、移植実験や栽培実験を行う予定である。 さらに、繁殖干渉の詳細なメカニズムの解明のため、上記の様々な植物について、花粉管観察なども進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に計画していた遠方での植物野外調査、および、その際にサンプリングした植物の栽培実験の一部が、コロナ感染拡大継続のために実施できなかった。そのため、これらの調査・栽培補助に使用するつもりで申請していた予算を使用し切ることができなかった。 次年度は、近郊の植物を用いた野外調査の他、すでに取得した植物の所属場所での栽培実験をさらに大規模に実施するほか、繁殖干渉のメカニズム解明につながる遺伝子解析や花粉管観察など、ミクロな現象を追う研究にも視点を拡大し、それに沿った研究への使用を計画している。
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