研究課題/領域番号 |
20K06785
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 崇 京都大学, 総合博物館, 研究員 (60436516)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アシロ目 / ガマアンコウ目 / ミトコンドリアゲノム / ゲノム構造 / 分子系統解析 |
研究実績の概要 |
本課題の初年度となる2020年度は,まず解析用の試料収集に注力した.本来は,海外も含めて対象魚類の採集に赴く予定であったが,コロナ禍により出張が制限され,海外からの貨物の発送も滞ったため,早期に国内の大学・博物館などを中心に試料提供に関する協力をあおぐこととなった.その結果,本課題の目標 としている試料数の半数以上にあたる4科30種を入手することができた. アシロ目・ガマアンコウ目魚類の包括的系統解析の第一段階として,科内種数が200種超と非常に多く,形態的多様性に富むアシロ目のアシロ科とフサイタチウオ科魚類を中心としたミトコンドリア(mt)ゲノム全長塩基配列の決定,そして両グループの予備的な分子系統解析を進めた.その結果,4科12属19種の mtゲノム全塩基配列を決定することができた.これまでの研究により,両目魚類の複数種のmtゲノムには,脊椎動物一般のものとは異なる特異な遺伝子配置があることが判明していた.本研究で決定したデータを網羅的に解析したところ,アシロ科,カクレウオ科,ガマアンコウ科の複数種のmtゲノムにおいて,魚類を含む脊椎動物全体で共有される遺伝子配置とは異なる複数の配置変動の例を発見した.両グループに外群も含めた40種ほどの予備系統解析の結果に遺伝子配置情報を合わせると,これらの配置変動は亜科や属レベルの分化タイミングで生じたものと推定され,特有の遺伝子配置の共有が単系統性を支持するマーカーとなることが示唆された. これらの結果から,両目魚類には他にも多くの配置変動が見つかる可能性が高まった.複数タイプの配置変動が生じているグループは,mtゲノム遺伝子配置の進化プロセスを解明する上で,非常に良いモデルとなることが期待される.次年度は未解析の科や種の試料・データ収集をより一層進め,両グループのmtゲノム構造や様々な形質の進化パターン解明にせまりたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題は3年間の計画で進めており,2020年度から2021年度前半にかけては解析用標本の採集と分子解析用試料の収集に力を入れ,早期の目標達成を目指す予定であった.しかし,コロナ禍により国内外への採集や海外の研究機関からの試料提供が滞り,国内の研究機関からの試料提供に頼ることとなった.現在までのところ,国内の大学・博物館等の研究者から多くの協力が得られ,事前に入手済みの試料も合わせると,本課題の収集目標全体の半数以上の解析試料を入手できた. 当初計画では,初年度後半から次年度にかけて,すでに入手済みの試料を中心に20から30種ほどのmtゲノムおよび核遺伝子の塩基配列データを収集する予定であった.今年度の前半は,職場への出勤も制限されていたため,予定通りに研究を進めることができなかったが,後半からは上述のように試料も集まり,解析データの収集が可能になった.最終的には,科内の多様性に富むアシロ目のアシロ科とフサイタチウオ科魚類を中心に,4科12属19種のmtゲノム全長配列を決定することができた.核遺伝子については,まだ収集を終えていない.これらの新規データの中には,これまでに報告例のない新規遺伝子配置変動を持つものを4例発見した.さらに外群として2種のデータを加え,21種のデータ収集を完了した.これらのデータと既に決定済みのデータををもちいて,約40種の分子系統解析および遺伝子配置解析を実施し,アシロ科が単系統群にならないこと,特有の遺伝子配置の共有が属や亜科レベルの単系統性を支持するマーカーとなりうることなどを明らかにした. 以上のことから,本研究課題の現在までの達成度は,当初予定よりは若干遅れ気味に進行していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
アシロ目・ガマアンコウ目魚類全科の網羅と,より精密な解析結果を得るために,2021年度も不足分の解析用試料の収集と核ゲノムも含めた塩基配列データの決定を継続する予定である.特に,アシロ目ではこれまで分子データが全く得られていないソコオクメウオ科の標本と試料を複数入手することができたため,その系統位置を確認するためにも,早急に mtゲノム全長配列データと核遺伝子データの収集を進める.mtゲノムの全域にわたる大規模な配置変動が見つかったガマアンコウ目は,その変動の共有範囲を明らかにするため,データの拡充を行う.他の科と外群に関する未処理の試料に関しても分子データを決定し,これらのデータを加えて補強された全データセットをもちいて,両目内を網羅した精密な系統解析を行い,分化過程や遺伝子配置の進化パターン,多様な形態形質の進化を考察する.これらの結果については,年度内投稿を目標に速やかに論文として公表する作業を進めるとともに,学会等での成果発表を積極的に行う. また今年度は,初年度に調査できなかった各博物館所蔵のアシロ目・ガマアンコウ目魚類の標本を調査し,寄生性等脚類(ウオノエ類)の寄生率や宿主特異性などの解析に着手する.コロナ禍の影響により直接訪問が難しい場合は,標本を段階的に借り受けて調査することも念頭に置く.調査予定としては,北海道大学(函館),国立科学博物館(つくば),東海大学(静岡),高知大学(高知)等を予定している.標本調査と同時に各地で採集も行い,入手した試料からの塩基配列データ収集を精力的にすすめ,本研究課題に必要な試料の収集を今年度で完遂させるべく,国内外の研究機関への採集協力依頼を継続して行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度予算は,消耗品の購入費用や塩基配列決定のための外注費用として使用された.実験用消耗品がキャンペーン価格により安価で購入できた他,コロナ禍の影響により採集調査ができず,また参加予定の学会が中止またはWeb開催になったことにより出張旅費を使用できなかったため,年度末の時点で588,498円の残金が発生した.この金額は,次年度以降の解析費用,旅費への繰り越しとした. 2021年度は,不足分の標本試料採集へと赴く予定である.この採集費用と標本の送付に20万円を使用予定である.さらに対象魚類や寄生性等脚類の標本調査のために,国内の複数の研究機関への訪問調査を企図している.その旅費のために25万円を使用する予定である. 本研究のコアとなるのは多数の魚類と寄生性等脚類の塩基配列決定である.これまでの経験に基づいて,1種あたりの試薬・消耗品費(約1万円)および外注費用(2.5万円)を推定し,その値に配列の決定が必要となる種数(約30種)を乗じて総消耗品費を算出し,合計で105万円を使用する計画である.また,学会発表等の費用として15万円(2回の年会参加を想定),論文発表に伴う英文校閲やカラー原稿費用として30万円(3本の論文を想定)を使用する予定である. 以上,2021年度は繰越分含めて合計195万円の予算で本研究課題を進めていく計画である.
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