研究実績の概要 |
2021年度前半は,アシロ・ガマアンコウ目魚類のうち科内の多様度が非常に高いアシロ科とフサイタチウオ科を中心に,ミトコンドリア(mt)ゲノム全長塩基配列データの拡充を行なった。その結果,mtゲノムではこれまで1000bp 程度の分子データしか報告されていなかった深海性のソコオクメウオ科の2種やアシロ目の稀種を複数含む,21種のデータを新規に決定することができた。核遺伝子に関しては解析の精度向上を期して,当初予定していた10種類の遺伝子に加えて,進化速度の差が少ないと考えられ,配列長も長く魚類の高次解析への実績がある非連鎖核遺伝子4種類(RIPK4, FICD, KIAA1239, Rhod)の塩基配列データ収集を行なった。 年度後半には,アシロ・ガマアンコウ目魚類の包括的系統解析のまとめとして,得られた全データセットをもちいた系統解析ならびに遺伝子配置の解析を行なった。最終的に,アシロ目では5科40種,ガマアンコウ目では1科3種の新規 mtゲノム全長配列を決定した。これに外群やデータベース上の既登録データ(部分配列を含む)を加え,最終的に総計206種を網羅する系統樹を構築することができた。その結果,両目の単系統性は支持され,両者の系統位置はスズキ系魚類の最も基部にあたることも確認された。14種類の核遺伝子配列から得られた系統樹は,mtゲノムの結果と大筋で一致した。さらに,mtゲノムでは解決しきれなかった科間の系統関係を補う結果が得られた。 本研究で扱ったアシロ・ガマアンコウ目魚類の mtゲノムからは,目全体で共有されるものや,特定の科もしくは属内で共有されるものなど,7パターンの新規遺伝子配置変動が発見された。これらの配置変動は,それぞれのグループが分化する際に生じたと見られ,特異な変動パターンの共有が単系統性を支持するマーカーとなることが明らかとなった。
|