研究課題/領域番号 |
20K06786
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
田澤 一朗 広島大学, 両生類研究センター, 助教 (10304388)
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研究分担者 |
中島 圭介 広島大学, 両生類研究センター, 助教 (60260311)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 挿入骨格要 / intercalary element / 樹上性 / 無尾両生類 / ニホンアマガエル / シュレーゲルアオガエル / 同時期 / HE染色 |
研究実績の概要 |
カエル目には指の第一関節に挿入骨格要素 (IE: intercalary element) をもつ種が存在する.「IE を持つこと」は「指先に吸盤があり樹上性であること」と強い相関がある.樹上性とIEはカエル目の中ではカエル亜目のみに認められ,IEを持つ種はカエル亜目の中では多数の系統に広くやや疎らに分布している.もし,これらIEの進化的起源が単一であれば,そのことはカエル亜目の現在の繁栄が進化初期における樹上性の新規獲得と関係が深いことを示唆する.しかし IE の比較発生学的解析はこれまでに殆どなされていない.そこで本研究では,カエル亜目の中で系統的に離れ形態的に異なるIEを持つ2種を用い,IE の発生過程がどの程度共通であるかを複数の手法を用いて調べる. 研究の第一歩として,系統的に離れ形態的に異なる IE を持つニホンアマガエルおよびシュレーゲルアオガエルの発達中の肢芽の透明骨格標本および H.E. 染色した組織切片を作成し種間比較した. 肢の外形の変化を基準にすると,ニホンアマアガエルよりシュレーゲルアオガエルの方が IE の発達開始タイミングが早かった.しかし,IE 周囲の組織の分化程度を基準にすると,両種の IE 発達開始タイミングはほぼ同じであることがわかった.このことにより,系統の離れたこの両種の IE 形成メカニズムは基本的に同じであることが示唆された.この結果は,今後予定される様々なマーカーによる比較の際の肢発達段階上の基準となるので本研究にとって重要な基礎である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は実施順に大別して「骨学的,組織学的比較」「その他マーカーによる比較」「阻害剤への影響の比較」からなる.現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」と評価するのは,前述の第一段階「骨学的,組織学的比較」の必要な内容が完了したためである.
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今後の研究の推進方策 |
1.マーカー分子の局在比較 I型およびII型コラーゲン等細胞外マトリクスに対する抗体を用いた免疫組織化学的解析:軟骨と硬骨とその他のマトリクスとを区別して染色でできる.市販品の抗体が利用できる可能性があるので試用する.軟骨芽細胞および骨芽細胞を検出する in situ ハイブリダイゼイション:軟骨および硬骨の発生初期を捉えるのでIEの発生初期を認識できる可能性がある. 2.肢形成関連シグナルに対する阻害剤への影響の比較 形態形成関連分泌タンパク質(FGF,Shh,Wnt,BMP):正常な肢発生に必要なシグナル分子.シグナルの阻害には市販の阻害剤が利用できる.甲状腺ホルモン:カエル類の肢芽の発達は甲状腺ホルモン依存的である.本研究では,甲状腺ホルモン合成阻害剤メチマーゾルを投与したときにIEの発生が肢芽の発達と同期して抑制されるか否かに着目する. 3.結果の比較検討 由来する組織が異なる等,IEの発生メカニズムが両種で根本的に異なることが示されれば,そのことは複数系統における独立起源を支持する.逆に,両種のIE発生メカニズムが基本的に同じであれば,カエル亜目の共通祖先における単一起源を支持する.単一起源であれば,現在IEを持たないカエル亜目の種は進化過程でIEを失ったことになる.したがって,このような種の肢形成過程にはIE発生プロセスの名残が存在する可能性がある.そこで,上記①と②の結果が単一起源を支持した場合には,さらに,カエル亜目以外のカエル(ネッタイツメガエル等),およびカエル亜目のIEを持たないカエル(ニホンアカガエル等)での指骨格の発生プロセスを比較し,後者(=カエル亜目のIEを持たないカエル)にIE発生プロセスの名残が無いかを探索する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に購入を計画していた顕微鏡とインキュベーターの機器選定に時間がかかったため.2021年度は当初計画分および前述遅延分を支出予定.
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