研究課題
本年は、新型コロナウィルスによる研究活動停止の影響を受け、検討に十分な数の無翅昆虫卵を得ることが困難であった。そのため、一部計画を変更して研究を行った。大きな変更点としては、1)カマアシムシ目に関し、試料が得られやすい幼虫・成虫を用い、カマアシムシ目の生殖巣形成に着目した後胚発生の検討を行ったこと、および2)有翅昆虫の卵鞘を用いて菌類と昆虫卵の相互関係を検証したことである。当初予定の実験としては、モリカワカマアシムシにおける亜成虫および成虫での雌雄判定を試みた。コンビレンズ付き実態顕微鏡による高解像度観察・撮影法を用いたところ、亜成虫においては、オスを、成虫においては雌雄を生殖器の形態により生きたまま判別することができた。観察に際しては二酸化炭素麻酔を施し、覚醒率も良好であることから、交配実験に用いる個体の雌雄判別が可能となったといえる。モリカワカマアシムシの後胚発生の組織学的検討の結果、卵巣は 1) 成虫前ステージにおいて第 2~4 腹節に位置し、2) 成虫脱皮後に後方に拡大し、卵母細胞の脱核と成熟卵の分化が開始すること、精巣は 1) 成虫前ステージにおいて後胸から第 1 腹節に位置し、2) 成虫脱皮後約二倍の長さまで発達することが明らかとなった。卵殻形成は、卵成熟と同じく成虫脱皮後に起こると考えられるが、本年度薄切した試料からは形成過程の観察像を得られなかった。以上のことから、卵殻形成は短期間で完了する可能性が考えられる。菌類と昆虫の相互関係の解明に関しては、入手しやすく、菌類の影響を観測しやすいサイズのトノサマバッタ卵鞘を用いた分解実験を行った。その結果、卵鞘が菌類により分解されることにより軟化し、孵化が可能となっている可能性が示唆された。また、筑波大との共同研究により、卵鞘の軟化に関わっている菌が常在の腐生菌である可能性も示された。
3: やや遅れている
新型コロナウィルスの影響もあり、無翅昆虫類の採集や飼育にも影響があった。特に繁殖個体を確保すべき初夏において、研究活動そのものに大きな制限があり、採集が困難であったことは計画に大きく影響し、年度内のカマアシムシ目採卵数は数個に留まった。そのため、本年は比較的入手しやすい成熟幼虫・成虫を用い、後胚発生期の生殖巣形成や卵形成に焦点を当てて研究を行った。また、試料の少ない時期には有翅昆虫類のトノサマバッタ卵鞘を使用するなど、当初の目的を達成するため、利用しやすい材料の模索を行っている。
今後は採集・飼育個体数の回復を最優先で行うとともに、効率よく採卵を行うため、飼育法を改善し、研究に必要なカマアシムシ卵の確保を行う。中でも結果が得られやすいクマシーブルー染色やSEM観察など、外部形態観察を優先する。また、モリカワカマアシムシ飼育に用いる餌の変更など、飼育法の改良を試み、より効率的な採卵を目指す。トノサマバッタの卵鞘と菌類の関係については、興味深い結果が得られているので、有翅昆虫卵と菌類の関係についても新たな課題として引き続き検討を進める。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
BMC evolutionary biology
巻: 20 ページ: 144-144
10.1186/s12862-020-01699-0