前年度より引き続き、性染色体の進化過程の復元を目指し、実験室で産卵させた卵を複数の恒温条件にて孵卵する実験を実施した。現在までに、ニシヤモリ計42卵、ミナミヤモリ与那国島系統計62卵、北トカラ系統計61卵、九州系統計53卵、八重山系統計28卵が得られている。さらに孵化幼体の生殖腺観察を実施したところ、少なくとも北トカラ系統および九州系統は遺伝性決定であることが示唆された。また、その過程で実施した薩摩半島での野外調査の結果、北トカラ系統と九州系統が概ね側所的に分布しており、頴娃町が分布の境界域であることが示唆された。 また、前年度までの調査で、北トカラ系統とニシヤモリの接触域では、北トカラ系統ではオスの鳴き声でニシヤモリと異なる方向に繁殖形質置換が生じている一方で、ニシヤモリでは鳴き声構造に個体群間差はみられないことが分かっている。そこで、メスの同種オスの鳴き声に対する選好性を検討するため、両種のメスを用いたプレイバック実験を実施した。得られたデータは現在解析を進めている。 さらに、コロナ禍により中断していた台湾との共同研究を再開し、研究代表者の異動に伴い共同研究協定を再締結したほか、台湾側の共同研究者と台湾島の各系統の鳴き声データを収集するとともに、台湾島北部で分布を接している2種については境界域で詳細な分布調査を実施した。その結果、側所分布する系統間で鳴き声構造が分化していることを定量的に確認できたほか、台湾島北部の2種間では例外的に大規模な交雑が生じていることが強く示唆された。
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