研究課題/領域番号 |
20K06790
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
松原 和純 中部大学, 応用生物学部, 准教授 (90399113)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 性染色体 / 温度依存性決定 / 爬虫類 / ヤモリ / 進化 / DMRT1 |
研究実績の概要 |
Gekko属ヤモリでは種間および種内で性決定様式の多様性が見られる。本申請課題では、ニホンヤモリとミナミヤモリの2種のヤモリにおける性染色体のゲノム配列や性決定機構を種間および種内で比較解析する。 ミナミヤモリの性染色体には精巣決定因子の一つであるDMRT1が位置する。Pacbioを用いた次世代シーケンス解析で得られた沖縄島産ミナミヤモリ雌1個体の全ゲノムデータを用い、DMRT1やその近傍の遺伝子のZとWホモログの同定を試みた。はじめにニワトリやニホンヤモリのDMRT1塩基配列を用いてミナミヤモリの全ゲノムデータに対してblast検索を行った。その結果、著しくスコアが高く、DMRT1の全長を含むcontig (contig1556)が同定された。続いて、そのcontig1556を用いてミナミヤモリの全ゲノムデータに対してblast検索を行ったところ、DMRT1は含まないが、全長に渡ってcontig1556に対して類似性を示すcontig (contig2879)が同定された。二つのcontigの配列の違いを利用してPCRによって各contigの性特異性を調べた結果、contig2879は雌特異的な配列であった。従ってcontig1556がZ染色体、contig2879がW染色体に由来する配列であることが判明した。また、これによってPCRによる胚の性判別が可能となった。さらに、このPCRで設計したプライマーを用い、雌雄間で性染色体の形態的な分化が見られない石垣島産個体群の雄2個体、雌1個体に対してもPCRを行った。その結果、石垣島産個体でもcontig2879に対応する雌特異的な配列が見られた。この事から、先に両島個体群の共通祖先においてDMRT1の周辺配列の雌雄間の分化が生じており、各島で個体群が形成された後に、沖縄島産個体群で性染色体の形態的な分化が生じた事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本申請課題は沖縄島や石垣島のミナミヤモリや九州のニホンヤモリなど複数の個体群を比較解析することを計画していたが、2020年度に引き続き2021年度も新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、計画していた動物採集のための旅行を中止とした。また、2020年度の勤務地移動に伴い、移動先で新たにニホンヤモリを捕獲した。2021年度はそれらの飼育繁殖を行って受精卵を得ることに成功したが、未受精卵の割合が多く、また、発生停止した胚も多かった事から、胚を用いた解析で十分な成果を得られていない。これについては、より多数の個体を飼育できるように設備を充実させ、飼育個体数も増加させた。今後も、定期的な捕獲で飼育個体数を増やしていく。 研究協力者の支援により南九州のミナミヤモリやニホンヤモリを入手できたが、それらについては現在、細胞培養を進めており、核型分析や性染色体DNAの解析には至っていない。細胞培養が進み、十分な染色体標本と細胞が得られた個体から順次、解析を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように2021年度も新型コロナウイルスの感染拡大によりサンプリング旅行を取りやめた。その代わりにゲノム解析を進めた結果、石垣島産と沖縄島産の共通祖先において、既にDMRT1の周辺配列の雌雄間の分化が生じていたことが示唆された。一方で、DMRT1周辺以外では沖縄島産個体においても雌雄間で分化しているゲノム領域は同定されなかった。これらの事から、ミナミヤモリの性決定機構の進化においてDMRT1の周辺配列の性分化は重要なイベントであったと推察される。本年度は沖縄島産と石垣島産個体に加えて、南九州産の個体も用いて研究を進めていく。ミナミヤモリの地域個体群間での性染色体の構造を比較するために、各個体群について雌雄間で詳細に核型を比較し、性染色体の同定を行う。また、マイクロディセクションによりZとW染色体を単離し、染色体DNAを次世代シーケンサーで解読する。得られたデータを沖縄島産のZとW染色体と比較する事で、個体群間での性染色体の起源や分化の程度、性決定候補遺伝子の比較解析を行う。さらに、DMRT1の性決定機能を検証するために、DMRT1のZとWホモログの塩基配列を用いてreporter gene assayを行う。 ニホンヤモリは通常、1回の産卵で1-2個の卵を産む。また、個温度依存性決定をもつので、多くの場合、2個の卵から産まれた個体は同じ性になる。この予想に反し、2021年度におけるニホンヤモリの受精卵を用いた実験において雄1雌1の同腹仔が得られた。今後、この同腹仔のゲノム配列やエピゲノムの解析を進め、性分化に関する差異の同定を試みる。また、これらとは別に新たに受精卵を得て、性分化期における生殖腺のRNA-seq解析とメチローム解析を行う。また、南九州産と愛知県産のニホンヤモリの核型を比較解析し、ニホンヤモリにおける遺伝性決定の性決定遺伝子の同定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
020年度に引き続き、2021年度も新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、計画していた動物採集のための旅行や現地開催での学会参加を中止とした。そのため旅費を全く使用しなかった。2022年度には動物採集や学会発表を行う予定なので、その旅費として使用する。また、計画当初には予定していなかったミナミヤモリの個体群や、石垣島産の近縁種の個体を得ることも出来たので、それらの性染色体DNAの解析にも使用する。
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