Gekko属ヤモリでは種間および種内で性決定様式の多様性が見られる。本課題では、ミナミヤモリ(遺伝性決定)とニホンヤモリ(温度依存性決定)における性染色体のゲノム配列や性決定機構を種間および種内で比較解析した。 ミナミヤモリの性染色体には精巣決定因子の一つであるDMRT1が位置する。Pacbioを用いた次世代シーケンス解析で得られた沖縄島産ミナミヤモリ雌1個体の全ゲノムデータを用い、DMRT1や近傍の遺伝子のZとWホモログの同定を試みた。その結果、Z染色体に連鎖し、DMRT1全長を含むcontig1556と、W染色体に連鎖し、DMRT1下流領域を含むcontig2879が同定された。続いて、NovaSeq次世代シーケンサーを用いて雌雄各1個体のゲノムDNAを解読した。得られたショートリードの配列を全ゲノムデータにマッピングし、各コンティグ上のマッピング率を雌雄間で比較した。その結果、雌のマッピング率が著しく高いコンティグが複数同定された。それらのコンティグはW染色体由来であると推定される。 contig1556とcontig2879の部分配列を増幅するプライマーをそれぞれ設計し、沖縄島系統、石垣島系統、北トカラ系統、南九州系統の雌雄のゲノムDNAに対してPCRを行った。その結果、沖縄島と石垣島系統ではcontig2879の雌特異的な配列の増幅が確認されたが、北トカラと南九州系統では対応する配列の増幅は見られなかった。沖縄島と石垣島系統では共通祖先においてDMRT1周辺配列の雌雄間での分化が生じたが、北トカラや南九州系統では独自に性染色体の分化が進行した可能性が考えられる。 ニホンヤモリのゲノムDNAを用いてDMRT1のイントロン配列を増幅したところ性に相関する多型が観察された。ニホンヤモリの日本集団では温度依存性決定に加え、遺伝的な要因も性決定に関与する可能性が考えられる。
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