研究課題/領域番号 |
20K06792
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
矢吹 彬憲 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋生物環境影響研究センター), グループリーダー (20711104)
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研究分担者 |
白鳥 峻志 筑波大学, 生命環境系, 助教 (70800621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミトコンドリアゲノム / 分子系統解析 / 高次分類 / 祖先的真核生物 |
研究実績の概要 |
これまでに確立した新規ディスコーバ生物候補であるYPF-PP株について系統分類学的位置の推定を進めるとともに、そのミトコンドリアゲノムの完全解読を行った。分子系統解析からは、ディスコーバ内の巨大生物群であるユーグレノゾアの基部から独立に分岐する生物であることが確認された。当該成果を議論する中で、筑波大学の研究グループが有する培養株との関連性が新たに見出されたため、両者を含めた解析を進めている。また、YPF-PP株のミトコンドリアゲノムには、機能不明な複数のORF(Open reading frame)が存在することが確認され、一部は実際に転写されていることも確認した。これらの知見を精査することで、ユーグレノゾアの初期進化、特に初期多様化プロセスとミニサークルゲノムの存在など構造的に多様化したミトコンドリアゲノムの進化の解明が期待できる。 また真核生物全体の主要な系統を含んだ大規模分子系統解析を行い、ディスコーバのそのもの系統的位置とディスコーバ内部の系統分岐関係をより詳細に把握した。その結果、過去に祖先的ジャコバ類として記載した Ophirina amphinemaの系統的位置をより大規模データを用いて再解析する必要性とともに、ディスコーバ全体の成立進化に関わる重要な研究対象である可能性をあらためて認識した。全真核生物内でのディスコーバの系統的位置を含む解析結果は、オンラインシンポジウムの招待講演で発表したほか、原著論文として投稿直前の状態にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに確立した培養株を用いた研究は、当初の計画を前倒しする形で順調に進んでいる。特に、YPF-PP株に関する研究では、想定して以上に大きなインパクトを伴う成果が得られており計画を大きく前倒ししながら進展している。また、その成果をもとに、別の研究グループが有する培養株を含めた解析を共同で進める計画も新たに立ち上がり、波及効果のある展開となっている。過去に記載したOphirina amphinemaについてもより詳細な系統的位置の再推定の必要が確認され、当該課題のテーマの中で新たな重要研究対象となっている。招待講演や関連する議論を通じて国内外の複数研究グループから共同研究やデータ共有の申し出を受けていることも、本課題が関連分野で関心が高くまた順調に進捗していると認識されていることの証左一つと捉えている。 その一方で、新たな培養株の確立は、当初の想定と比べ若干の遅れがある。これはコロナ禍にあり、新規培養株を確立するための試料収集を目的とした出張・調査についての予定変更があったこととテレワーク要請に伴い出勤し実験を行う機会が減少したことが主な要因である。確立済みの培養株を用いた分子実験等とは異なり、培養株の確立は専門的な技術とその高い習熟度が必要となるため、受託会社への依頼などで解決することは難しい。しかしながら、この一年間で新たな培養方法の導入やより近場での試料収集を行う目処も立ちつつあり、問題解決の糸口は掴めつつある。よって課題全体としては期待通りに順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
確立済みの培養株を用いた研究では、既に得られている成果をより深掘りする形での進展を目指す。具体的には、得られたミトコンゲノム上の遺伝子が発現に際し特定塩基の挿入などの編集を受けていないかの確認や近縁な複数株間での発現様式や発現レベルの違いを解析する。これらはいずれもディスコーバ内で多様性や特殊性が知られている特徴であり、YPF-PP株を含む新たなグループでもその特徴を把握することで、ディスコーバ全体の初期進化に通じる知見が取得できると期待される。また微細構造、特に捕食装置周辺の細胞骨格構造はディスコーバのみならず真核生物の初期進化を理解する上でも重要な特徴であり、その把握に向けた観察も次年度、次次年度では強力に推し進めたい。そこから得られた知見は、祖先的真核生物の持つ捕食能力を類推する上で重要な知見となり、そこから各種共生体の獲得プロセスの理解にも通じると期待している。 新規培養株の確立については、半自動化装置の導入・活用や別の研究課題で入手見込みのあるサンプルの活用などを視野に入れながら、より一層の効率的展開を目指す。培養株の確立は今後展開する研究の幅を広げる上で極めて重要な取り組みである一方で、既に成果創出の目処が十分に立っている培養株が確立できていることも事実である。そのため、新規培養株の確立に注力しすぎることで、他の進捗に影響が出ないようにも注意したい。既存株を用いた研究で着実に成果の創出を進めつつ、その将来的な発展を下支えする展開を同時に進める意識を持った取り組みを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で予定していた出張・調査を実施することができず旅費とそれに関係する消耗品費等の支出が発生しなかったため未使用の助成金が生まれた。繰り越した助成金は、計画を前倒しする形で順調に進展している課題を一層進展させるための費用として利用する。具体的には、YPF-PP株やFC-901株における遺伝子発現様式の解明に向けた受託解析の費用として活用する。当初予定していた出張・調査は、コロナ禍での実施は難しいと判断し、規模を縮小した形での実施(近隣の港での採水や研究協力関係にある水族館等からの試料取得)を目指す。なお本変更に際し、使用予算の若干の変更は生じるものの研究計画そのもの変更はない。
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