本課題では植物が持つ光受容体が植物の種分化に関わるかを検証することを目指している。特に,日本列島に固有のミヤマタネツケバナとその姉妹種で高緯度地域(北極圏)に分布するCardamine bellidifoliaをモデル植物に,種分化に関連して,光受容体の性質が進化していることに着目した研究を進めている。本年度は昨年度までに入手したRNAseqデータを詳細に解析することで,ミヤマタネツケバナはC. bellidifoliaから約25万年前に派生した種であることを明らかにした。そして,ミヤマタネツケバナが派生する際に自然選択を受けた可能性のある遺伝子を探索したところ,約7000個の遺伝子のうち,1%程度の遺伝子がその候補として挙がってきた。これらの遺伝子はミヤマタネツケバナが日本列島の環境に適応して種分化したことに関連する遺伝子であると考えられ,その中に2種間で生理的性質の異なるPHYBが含まれていることが明らかになった。この結果はphyBにおける光感受性の進化が種分化を引き起こす重要な仕組みであることを示唆する。また,ミヤマタネツケバナの種分化に関連した可能性のある遺伝子の機能を,モデル植物の研究に基づき網羅的に調べたところ,ほとんどの遺伝子は機能が未知であったが,植物ホルモンであるジベレリンに対する応答を制御する遺伝子が含まれていることがわかった。
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