研究課題
本研究は、W.T.Calman によって提唱された「背甲は甲殻類の系統における原始的な構造物である」という仮説を、複数種の甲殻亜門生物における「背甲形成関連遺伝子」の分子発生生物学的解析により、総合的に検証することを最終目的としている。これまでに研究代表者は、「オオミジンコの背甲は、Hoxタンパク質 SCRが特異化する第1・第2小顎体節由来で、融合した背板は含まず、VG/SD/wgが共発現 する周縁部で折りたたまれ伸張する」ことを明らかにしている。もしCalmanの仮説が正しければ、これら4つの主要な遺伝子の発現様式は他の甲殻類生物の背甲形成時においてもオオミジンコと同様であることが予想される。また背甲を持たないブラインシュリンプにおいて、これらの遺伝子がどのような発現様式であるのかを解析することで、より詳細な考察が可能となることが期待される。本年度の研究成果は以下の通りである。(1)主要な4種の背甲形成関連遺伝子の各種甲殻類における発現様式の解析するために、既に作製済みだった抗ブラインシュリンプVG抗体、および様々な生物のVGタンパク質のC末端に保存されている配列を元に合成したペプチドに対する抗体を用いた免疫染色により、ブラインシュリンプにおけるVGタンパク質の発現時期および発現領域を解析した。また抗アメリカザリガニSD抗体および抗アメリカザリガニSCR抗体によるアメリカザリガニ胚の免疫染色の条件を検討した。(2)オオミジンコ背甲形成に関わる分子機構の詳細を理解するために、上記した4つの主要な背甲形成関連遺伝子の下流背甲形成関連遺伝子の同定を試み、発生中のオオミジンコ背甲で特異的なパターンで発現している、複数のWNT遺伝子群を始めとする約10種の形態形成遺伝子群を新たに見出した。
2: おおむね順調に進展している
2020年度のコロナ禍による遅れを取り戻すべく、精力的に研究を進めた。コロナ禍の影響で、研究遂行に必要な研究試薬やキット、プラスティック製品の輸入が滞ったため、入手が思い通りにならないという問題はあったものの、研究自体はおおむね順調に進展していると言える状態になったと判断している。
(1) 各種甲殻類における主要背甲形成遺伝子の発現パターンと機能の解析今年度に引き続き、主要な4種の背甲形成関連遺伝子の各種の甲殻類における発現様式の解析を継続し、これらの生物の背甲でも「SCRによって特異化される体節で形成され、周縁部では VG/SD/wgが共発現しているか」を検証する。具体的には既に作製済みの抗アメリカザリガニSD抗体および抗アメリカザリガニSCR抗体によるアメリカザリガニ胚の免疫染色を行う。また現時点まで未取得のアメリカカブトエビvg cDNAの単離、さらにはアメリカザリガニおよびアメリカカブトエビの組み替えVGタンパク質の発現と精製、特異抗体の作製を試みる。(2) オオミジンコにおける下流背甲形成関連遺伝子の同定と機能解析 オオミジンコ背甲形成に関わる分子機構の詳細を理解するために、上記した4つの主要な背甲形成関連遺伝子、および新たに見出した背甲形成関連遺伝子群をCRISPR/Cas9系を介したゲノム編集によりノックアウトすることを試みる。またこれらのノックアウト胚内とオオミジンコ野生型胚内における遺伝子発現様式をRNA-seqにより詳細に比較する。背甲形成関連遺伝子のゲノム編集によるノックアウト後に発現量が変化(増加/減少)した遺伝子は下流の標的遺伝子である可能性があるため、これらの候補遺伝子の発現パターンや機能を同様に解析する。
コロナ禍の影響で、研究に必要な研究試薬やキット、プラスティック製品の輸入が滞り、入手が予定通りにならなかったため。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Toxicol Rep.
巻: 26 ページ: 1937-1947
10.1016/j.toxrep.2021.11.018