研究課題/領域番号 |
20K06802
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
高橋 亮雄 岡山理科大学, 生物地球学部, 教授 (50452967)
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研究分担者 |
池田 忠広 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (50508455)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スンダ列島 / 陸生脊椎動物化石 / 動物地理 / 発掘調査 / 広域分布種 / 個体群消滅 / 絶滅 / 人為移入 |
研究実績の概要 |
本年度は、ジャワ島東部のワジャック遺跡(更新世末期)より出土したマレーハコガメの化石を材料とした動物地理学および考古動物学的研究の成果を日本古生物学会の英文誌に公表することができた。マレーハコガメCuora amboinensisはイシガメ科セマルハコガメ属の一種で、インド~東南アジア大陸部から大スンダ列島、小スンダ列島、フィリピンにかけて広く分布する。本種は一般に4亜種に分割されているが、これらのうちミャンマー北部のビルマハコガメおよびスマトラ、ジャワ~小スンダ列島のジャワハコガメは、亜種分類の妥当性において疑問が投げかけられていた。特にジャワハコガメについては、最近の研究で大陸~ボルネオに分布するシャムハコガメとフィリピン、モルッカ諸島、スラウェシに分布するアンボイナハコガメ(基亜種)との間の交雑集団であり、シャムハコガメが氷河期の陸橋ないし歴史時代の人為移入を通して基亜種と交雑したことに由来する、という見方が示されていた。そこでわれわれは、後者の仮説の検証を目的としてジャワ島の更新統について本種化石を探索したところ、ワジャック遺跡の堆積物より同種の遺存体を初めて発見することができた。この結果は、本種が後期更新世にジャワ島に在来分布していたことを強く示唆する。また化石には明瞭な解体痕が認められたことから、本種がワジャック人により食料として利用されていたことも明らかとなった。 この結果をもとに、今後は同島の下部更新統より得られたマレーハコガメと考えられる部分化石(2018年学会発表済)についての分類学的検討を進める。ジャワ島では、第四紀の陸橋接続と分断を通して、複数の本種遺伝集団が定着していたことも考えられる。こうしたことから、2021年度以降はマレーハコガメの骨形態における種内変異についても検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題は、ジャワ島の下部更新統を中心とした第四系について、爬虫類化石に着目した発掘調査を行い、既存のものとあわせ化石の分類学的研究を進め、分子系統学的アプローチと古生物学的アプローチそれぞれによる系統進化および動物地理仮説を検証・補強することを最終目的としている。この目的を達成するため、ジャワ島での発掘調査の実施およびインドネシアやオランダ、ドイツ、イギリスなどの研究機関に収蔵されている化石や現生比較標本の検討を計画していた。ところが、課題が採択された4月1日の時点で新型コロナウィルス(COVID-19)感染症のパンデミックにより、計画のほぼすべてが実施困難(事実上、不可能)な状態となり、現在に至っている。このため、2020年度(1年目)はこれまで蓄積していたデータを用いるとともに、インドネシアの共同研究者の協力を仰ぎ本課題研究を進めた。その結果、研究成果の一部(1本;ジャワ島東部ワジャック遺跡から産した解体痕を伴うマレーハコガメの化石に関するもの)が国際誌に掲載されたほか、年代測定サンプルや現生比較標本を収集・充実させることができた。しかしながら、2020年度に計画していた調査や検討のほとんどは、残念ながら達成できているとは言えない。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度前半の段階では、当該年度内でのCOVID-19感染症の社会的影響の低下ないし収束を期待していたが、2021年度初夏の段階でさえも目途は立っていない。国内外のワクチン接種が今後急速に進めば、年度末にインドネシアを含め、海外での調査が可能となるかもしれないが、その可能性は現状では高くないと考えられる。このため、2021年度はバンドン地質博物館収蔵の化石標本について借用もしくはレプリカの作成を依頼し、日本へ送付してもらえるよう交渉する。また、既存の化石の分類や同定を推進するために、訪問を予定していた各国研究機関の研究者に協力を求め、予備研究データとしての形態情報の収集を試みる。年代測定については、ジャワ島中部ブミアユの前期更新世の堆積物を共同研究者より送付してもらえたことから、今年度は年代測定のためのジルコンの抽出と測定の実施を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は当初の計画では、ジャワ島において爬虫類を中心とした脊椎動物の化石を収集するために、インドネシア研究・技術・高等教育省へ学術調査の許可を申請し、発掘調査を実施することとしていた。また、化石の分類・同定を進めるために、オランダのナチュラリス生物多様性センターを訪問し、データを収集することも予定していた。しかしながら、COVID-19のパンデミックで、日本からの出・入国が事実上不可能となり、当初の計画のほとんどを実施することができなくなった。こうした調査・研究は、本研究課題の主柱というべき事業であるため、2021年度以降に延期して実施する必要がある。このため、2020年度の当初予算のほとんどを次年度へ繰り越すこととした。2021年度のジャワ島での発掘調査と国外博物館への訪問を強く希望しているが、新型コロナウィルスの社会的影響がしばらく収束しないことも考えられる。その場合は、2021年度への繰越予算をインドネシア・バンドン地質博物館からの化石標本の輸送費と国内での現生比較標本の充実のための博物館園への旅費およびこれらに係る消耗品費に充てることを検討したい。
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