本研究課題は,特に鳥類の目を中心に,顔付近の形態特徴の顕著性進化に関して,種内変異と種間変異の双方に焦点をあって検討をおこなった. 種内研究では,カエデチョウ科に属するブンチョウおよびコモンチョウについて,形質の機能および進化を明らかにする顕著な研究成果が得られている.ブンチョウは,目の周囲の皮膚が裸出し,膨れてかつ色鮮やかな赤みを帯びている(アイリング).このアイリングが,羽装よりも短期的に形態変化を呈することに着目し,つがい形成との関連を予測して行動研究によって検討した.その結果,予測通り,つがいが形成された時にのみアイリングは膨張しており,つがい間での繁殖同調に寄与している可能性が示唆された.コモンチョウに関しては,顔付近に多数みられる水玉模様が,餌由来の視覚選好に起因して進化した可能性を,視覚的注意の定量によって確かめることができた. これらの種内研究による結果と絡め,系統種間比較による検討もおこなった.カエデチョウ科全体に関して,アイリングあるいは目の顕著性にかかわる進化要因を,繁殖同調の必要性とあわせて検討したものの,明確な要因を明らかにすることはできなかった.一方,水玉模様の進化に関しては,コモンチョウでの視覚選好実験を複数種に拡張し,カエデチョウ科全体に関して同様の説明が可能であることを明らかにした. 以上の一連の研究では,鳥類の視覚信号の中でもとりわけ見落とされがちだった形質に関し,その機能と進化を明らかにしたものであるといえる.本課題中に検討できなかった顔特徴のひとつに嘴があげられるが,この進化要因に関する研究は現在も進行中である.
|