本研究では、日本列島にて温暖地に分布するススキスゴモリハダニHG型と寒冷地に分布するトモスゴモリハダニを対象に、①生殖隔離の強化の検証、②交雑帯での遺伝的集団構造の解析、③雑種の形質・適応度の調査、④半倍数性の特徴が強化に与える影響調査を行うことにより、半倍数体ハダニにおける生殖隔離の進化や倍数体との違いを考察することを目的としている。コロナの影響を強く受け、日本全国各地での採集を必要とする研究①はペンディングとし、初年度と次年度は、静岡県天城山にて研究②を行った。その結果、これら2種の接触帯では種間交尾がおこっていると予測されたものの、遺伝子浸透はごくわずかであることがわかった。そのため、どのようなメカニズムのもと、これら2種間で遺伝子浸透が抑制されているのかを解明するために、今年度は研究③と④に取り組んだ。 まず、先行研究により、これら2種間での雑種形成が報告されているが、研究②で対象とした個体群間では調べられていないため、これら個体群間で交配実験を行った。その結果、これら個体群においても雑種形成は確認された。次に、雑種の形質・適応度調査として、雌成虫の休眠形質に着目し、休眠が誘起される条件を探索した。先行研究により、これら2種は短日低温条件になると雌成虫が繁殖休眠に入り越冬すること、これら2種間で休眠形質が異なることが報告されている。しかし、ハダニ類では越冬時に体色変化がみられるものの、この研究では体色変化がなかったことから、本当に休眠が誘起されているのか疑う声があった。そこで、本研究では、先行研究よりもより休眠が誘起されやすい条件下(短日で日中:18℃、夜間:15℃)で、これら2種と雑種の休眠誘起をこころみた。その結果、産卵停止はみられたものの、体色変化は見られなかった。そのため、雑種の休眠形質を見る前に、まずは本種休眠の理解が必要不可欠と思われた。
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