研究課題
分集団構造がWrightの島モデルに従う無限集団を考え、島の大きさが有限で、かつ島には異なるタイプの別がある状況を考えて、ある一次元実数値形質に働く自然選択を定量的に導出した。具体的には島の大きさの有限性から社会的な相互作用をする個体間には正の血縁度が生じ、また島にはタイプ別が存在することから各個体の繁殖価が異なるので、結果として現れる公式には血縁度と繁殖価が含まれる。方法論としてはマルチタイプ分岐過程の理論を用い、デルタだけ異なる変異型が野生型集団に侵入する際の侵入適応度を計算し、侵入適応度のデルタによる一回微分(選択勾配)および二階微分(分断化淘汰係数)を計算した。最も一般的な結果として、分断化淘汰係数は三つの項から構成され、それぞれは「適応度の二階微分」「血縁度の一回微分」「野生型の定常分布の一回微分」を含むことが分かった。また、繁殖価の値は野生型集団で計算される値を用いれば十分であることも分かった。次に各個体の適応度が自分と自分の近傍の個体の形質値の関数として書かれる場合にこの一般理論を応用した。その結果、血縁度としては「中立時の二重血縁度」「中立時の三重血縁度」「二重血縁度の一回微分」が分かれば十分であることを発見し、繁殖価を含めて計6n本の方程式(nは島のタイプ数)を解くことで、分断化淘汰係数を導けることが分かった。最後にこの応用として資源ニッチモデルを扱い、自然選択の形式としてhard selectionモデルとsoft selectionモデルを対比した。その結果、hard/soft selectionモデル間ではニッチ利用形質の進化的分岐条件に大きな差が生じることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
進化ゲーム理論と血縁淘汰理論、Fisherによる繁殖価の理論の三つを結合させた理論体系を作り上げ、非常に一般的な場合に対して選択勾配および分断化淘汰係数を決定する公式を導くことができ、当初の目標であった三理論の統合の一つの成果を出すことができたから。
現在は研究計画2にある、空間的のみならず時間的にも状態が異なるパッチが存在する場合の一般理論の解析を進めている。一般理論の構築と同時に、特定の生物学的形質に関する議論を行うために、一次元形質の例として分散率を取り上げ、その解析も進めている。
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Journal of Theoretical Biology
巻: 507 ページ: 110449~110449
10.1016/j.jtbi.2020.110449