研究課題/領域番号 |
20K06812
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
大槻 久 総合研究大学院大学, 統合進化科学研究センター, 准教授 (50517802)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 進化ゲーム / 血縁淘汰 / 血縁度 / 繁殖価 / 数理生物学 / 理論生物学 / 協力の進化 / 人類進化 |
研究実績の概要 |
本年度は進化ゲーム理論と血縁淘汰理論の統合例として、血縁者間によってプレイされる公共財ゲームのモデルを分析した。 まず初めに3つの異なるグループ形成モデルを考え、それぞれにおいて同類性の効果によって血縁者が同一のグループに集まりやすい状況を考察した。"Leader driven"モデルではリーダーが血縁者を集めることで血縁者グループが形成される。"Members attract"モデルでは、個体が自分の血縁者がいるグループにより引きつけられると仮定する。"Members recruit"モデルでは、グループの構成員がそれぞれの血縁者を連れてくることで血縁者グループが構成される。このようにしてできる血縁者グループの血縁構造を、高次血縁度を用いて分析した。 次にこの血縁者グループにおいて非線形公共財ゲームがプレイされると仮定し、協力者と非協力者の頻度ダイナミクスを導出した。特に、協力者の人数がある閾値を上回るとグループ全体に利益がもたらされる「閾値型」の公共財ゲームを分析した。その結果、グループ形成時における同類性が高いと協力が集団に固定すること、同類性が中程度だと協力と非協力の安定共存、もしくは協力と非協力の双安定性が出現することを見出した。 これらの結果をヒト祖先の生活史に当てはめ、同類性が高い状態から低い状態に遷移した場合には、進化力学の履歴効果によって、血縁淘汰により先史時代に進化した協力行動が血縁度が低くなっても集団に安定に維持されることを発見した。この発見に基づき、協力の進化の「履歴」説を提唱した成果を論文にまとめた。この論文は学術誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来、血縁淘汰理論は3者以上の社会的相互作用の分析に向かなかったところを、その問題を克服する新しい理論を開発し、また人類の協力の進化シナリオの分析に応用して、進化ゲーム理論と血縁淘汰理論の統合という本研究課題の目的に沿った成果を挙げることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
血縁淘汰理論を、最も一般的な「m戦略n人ゲーム」の分析に使えるよう発展させ、進化ゲーム理論と血縁淘汰理論のさらなる融合を図る。また、進化ゲーム、血縁淘汰理論、繁殖価理論の3理論統合の応用例として、移動分散の進化の研究に引き続き取り組み、分散率の進化を促進・抑制する生態学的条件を理論的に解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
移動分散の進化に関する研究の論文掲載費を計上していたところ、年度末までに掲載受理を得られなかったため。引き続き論文掲載に向け努力する。
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