研究課題/領域番号 |
20K06812
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
大槻 久 総合研究大学院大学, 統合進化科学研究センター, 准教授 (50517802)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 繁殖価 / 血縁度 / 協力の進化 / 分散の進化 / adaptive dynamics / 進化ゲーム / 集団遺伝学 |
研究実績の概要 |
昨年度までに開発した一般的なフレームワークの応用例として移動分散の進化を取り上げ解析を進めた。具体的には時空間的に異質性を持つ集団における分散率の進化を調べた。集団はパッチ(分集団)に分かれていると仮定し、パッチ間の分散率の進化を議論する。パッチは場所と時間によってその性質が変化し、したがって分散の進化を促す潜在的な原動力となる。以上の仮定のもとで進化ダイナミクスを調べたところ、「質の低いパッチからの分散率は0に進化する」という意外な結論を得た。この結論を理解するために繁殖価に基づく解析を行ったところ、「質の低いパッチにいる個体の繁殖価は高い」というやはり意外な結論が得られた。これは、質の低いパッチはある確率で質の高いパッチに変化する可能性があり、その変化の際に個体が莫大な適応度上の利益を挙げられるからであると解釈できる。また、パッチの質に依存せずに分散意思決定を行うunconditional dispersalモデルも分析し、分散形質について多型が生じうることを発見した。以上の結果をJournal of Theoretical Biology誌に公表した。 また、第33回日本数理生物学会において、繁殖価に関する企画シンポジウム「繁殖価はどう活用できるか」を開催し、本研究の成果を公表するとともに、幅広い演者を招いて繁殖価の理論と実証研究を紹介してもらい、繁殖価の有用性と将来の課題について議論を深め、啓蒙を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分散の進化において、従来着目されてこなかった繁殖価の概念を持ち出すことで現象を上手く説明できることを見出すことができた。また念願だった数理生物学会での「繁殖価シンポジウム」を開催できたことで、研究成果の公表と、数理生物学コミュニティ―全体への貢献を果たすことができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き分散の進化研究に取り組む。特にcatastrophe(環境撹乱)がある場合の分散の進化については、先行研究があるものの、なぜそのような結果が得られるかが判然としておらず、包括的な理解には至っていないのが現状である。そこで繁殖価の手法を用いてこの問題に取り組み、catastropheと繁殖価の関係についての理論を構築し、分散の進化をより包括的に理解することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の流行により、2020年から2022年に予定していたフィンランド・トゥルク大学との共同研究に遅れが生じ、いまだその影響を受けているため。
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