研究課題/領域番号 |
20K06813
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
河村 功一 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (80372035)
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研究分担者 |
古丸 明 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10293804)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国内外来種 / 遺伝的攪乱 / 種間関係 / 生殖的隔離 / 系統地理 / 種間交雑 / 遺伝子浸透 |
研究実績の概要 |
アブラハヤとタカハヤの生息地において外来個体の移入状況を明らかにする事を目的とし,紀伊半島の33地点において調査を行い,183個体を採集した.両種の識別に於いて有効とされる複数の形質(体型、体色、側線麟数等)を用いた種の識別ならびにmtDNAのCyt-b領域を対象としたAS-PCRによる種の判別を行った所,179個体においては外部形態とmtDNAで種が一致したが,4個体(2%)においては一致しなかった.なお,外部形質による種の同定においては体側上の暗色班が有効である事がわかった.種の分布様式についてみると伊勢湾流入河川と琵琶湖流入河川においては両種の存在が認められたのに対し,太平洋流入河川ではタカハヤしか見られず,外部形態とmtDNAで種が一致しない個体は三重県内の伊勢湾流入河川の複数地点で確認された. mtDNAのcyt-b領域(1,141bp)の解読においてアブラハヤは2クレード(伊勢湾,琵琶湖),タカハヤは3クレード(伊勢湾,琵琶湖東,近畿)の存在が認められたが,ハプロタイプの分布について見ると移植と思われるものがアブラハヤにおいて多く認められた.移植と思われるハプロタイプは伊勢湾流入河川の複数地点で認められ,この理由として琵琶湖産コアユの移植に伴う移入が主な要因として考えられたが,コアユの放流履歴のない河川においても移植の可能性の高いハプロタイプは少なからず認められ,アマゴ等の移植に付随した移入も無視できないことが示唆された. 外部形態とmtDNAで種が一致しない個体は何れもアブラハヤとタカハヤの混生域において認められた事から雑種の可能性が高く,またこうした生息地においては何れも外来の可能性の高いアブラハヤのmtDNAが検出された事から,次年度はこれらの生息地において交雑の実態解明を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外調査,形態分析,DNA分析により,当初の目的である国内外来種の侵入状況をある程度明らかにすることは出来たが,コロナウィルスの蔓延等により7月まで野外調査が出来なかったことから,十分な調査+サンプリングが出来たとは言えない状況にある.
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今後の研究の推進方策 |
外来個体と在来個体の交雑状況を明らかにすると共に外来個体の侵入により在来のアブラハヤとタカハヤの種間関係の変化の解明を野外調査、DNA分析、形態解析、細胞遺伝学的解析の4手法により試みる。1)野外調査(河村):アブラハヤとタカハヤの複数の混生域において調査を行い、マイクロハビタットで見た場合の両種の分布様式を明らかにすると共にDNA分析の結果と合わせて、外来個体と交雑個体の出現地点を明らかにする。2)DNA分析(古丸・河村):マイクロサテライトDNA分析により、両種の遺伝的関係を明らかにすると共に外来個体と在来個体の交雑状況を明らかにする。また、交雑個体についてはmtDNAの分析結果と合わせ、ベイズ法基にしたシミュレーションにより交雑様式を推定する。3)形態解析(河村):DNA分析の結果を受け、外来個体と在来個体の交雑個体について初年度と同様の形態解析を行い、交雑個体の形態的特徴を明らかにする。また、交雑個体の妊性の有無を見るため、HE染色による生殖腺の発達状況を調べる。4)細胞遺伝学的解析(古丸):アブラハヤ属においては種間交雑による異質倍数体の出現が知られていることから、血球サンプルを用いフローサイトメーターによる倍数性判定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナウィルスの蔓延により十分な野外調査ならびにサンプリングを行う事ができなかっただけでなく,学会発表を行う事も出来なかった.繰越金については次年度の野外調査ならびに学会発表を含めた研究発表において使用する予定である.また,次年度に於いては細胞遺伝学的解析においてフローサイトメーターの使用等でかなりの試薬の出費が見込まれることからこれにおいても使用したいと考えている.
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