研究課題/領域番号 |
20K06813
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
河村 功一 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (80372035)
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研究分担者 |
古丸 明 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10293804)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国内外来種 / 遺伝的攪乱 / 種間関係 / 生殖的隔離 / 系統地理 / 種間交雑 / 遺伝子浸透 / 棲み分け |
研究実績の概要 |
アブラハヤとタカハヤの雑種形成様式を明らかにするため、三重県雲出川水系の1支流における両種の混生域(約20km)において調査・分析を行った。水域内32地点で採集した1154個体についてmtDNAのCyt-b領域を対象としたAS-PCRによる種の判別とマイクロサテライトDNA10座を用いた交雑解析を行ったところ、半数以上の地点で交雑個体が検出され、その割合は約8%に達することが判った。交雑個体は雑種第1世代(F1)と戻し交雑個体(BC)から構成され、BCが約5割を占めていた。生殖腺の観察においてF1、BC共に雌は卵形成が正常であることが判ったが、雄は精細胞は見られたものの精子は確認出来なかったことから、交雑個体の雌は妊性を有し、継代していることが明らかとなった。F1のゲノム組成についてみると、F1は約8割がアブラハヤのmtDNAを有し、殆どの個体がタカハヤの優占域で見られたことから、雑種形成様式としてタカハヤの雄によるアブラハヤの雌への繁殖干渉が考えられたが、アサイメントテストの結果から戻し交雑は、アブラハヤとタカハヤの何れの種においても生じていることが示唆され、遺伝的攪乱はアブラハヤとタカハヤの両種において生じている可能性が高い事が明らかとなった。なお、外部形態と遺伝的特徴の関係について見たところ、不対鰭の位置、眼径のサイズ、さい耙数の数と大きさにおいて種間で違いが見られる事が判ったが、種間で完全に形質は分離せず、単一形質のみによる種の識別は困難であることが判った。また、赤血球の倍数性について見たところ、雑種はいずれも2倍体となり、交雑に伴う倍数性の変化は見られなかった。各個体のmtDNAのハプロタイプについて調べた所、タカハヤは何れも在来のものであったのに対し、アブラハヤの一部においては他河川由来と思われるものが認められたが、交雑との関係性は確認できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
野外調査、形態解析、DNA分析、倍数性調査等、全てにおいて作業ほぼ順調に進んでおり、結果も確実に出ていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
外来個体と在来個体の交雑状況を明らかにすると共に外来個体の侵入により在来のアブラハヤとタカハヤの種間関係の変化の解明を野外調査、DNA分析、形態解析、細胞遺伝学的解析の4手法により試みる。1)野外調査(河村):アブラハヤとタカハヤの混生域において調査を行い、DNA分析と併せることにより、外来個体ならびに交雑個体(外来個体×在来個体)の出現状況を明らかにする。また、可能であれば野外における繁殖行動等の観察を行い、交雑個体の出現を生態的に明らかにする事を試みる。2)DNA分析(古丸・河村):mtDNAのハプロタイイプ分析とマイクロサテライトDNA分析により、外来個体と在来個体の交雑の実態解明を試みる。また、アブラハヤとタカハヤにおける遺伝的攪乱の程度を明らかにする。3)形態解析(河村):交雑個体の繁殖特性を明らかにするため、人工授精により交雑個体を作出し、HE染色による生殖腺の観察により、雌雄における妊性の有無の違いを調べる。4)細胞遺伝学的解析(古丸):昨年に引き続き、F1だけでなくBC個体についても赤血球を材料に倍数性判定を行い、交雑に伴う倍数性の変化を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度は本課題の実施採集年度に当たり、DNA分析等における試薬代の支出増加が見込まれることから、繰越金を計上してある。
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