• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2021 年度 実施状況報告書

地球温暖化下のサンゴ礁の復元力になわばり性藻食スズメダイが果たす役割

研究課題

研究課題/領域番号 20K06814
研究機関愛媛大学

研究代表者

畑 啓生  愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 准教授 (00510512)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードサンゴ礁 / 生物多様性 / 地球温暖化 / スズメダイ / なわばり / 藻類食
研究実績の概要

世界のサンゴ礁では、地球温暖化によりサンゴの大規模白化という大規模撹乱が頻発している。この攪乱に対するサンゴ群集の復元力には、サンゴと競合する藻類を食べる藻食者が貢献するが、藻食性スズメダイ類は、なわばりを防衛して、芝状藻類の繁茂した藻園を摂餌の場として維持する。この芝状藻類は、サンゴが死滅した後に優占することが世界中のサンゴ礁で観察されている。この芝状藻類はサンゴと基盤と光をめぐる競争関係にあり、芝状藻類の繁茂はサンゴ群集の回復に影響を及ぼす。なわばり性スズメダイは、芝状藻類の繁茂を助け、大規模撹乱からのサンゴ群集の回復を間接的に妨げるかもしれない。また、なわばり性スズメダイは時になわばり周縁のサンゴをつついて直接効果としてサンゴ群体に負の影響を与えうる。本研究では、沖縄のサンゴ礁域で、白化前の2015年から観察しているスズメダイ6種のなわばり内外を追跡し、大規模白化からのサンゴ群集の初期再生の過程にスズメダイのなわばりが果たす役割を明らかにする。
本年度、塊状ハマサンゴ群体上に多くなわばりを形成するクロソラスズメダイとハナナガスズメダイを観察した結果を解析した。その結果、両種のスズメダイのなわばり外縁のハマサンゴ群体上に、スズメダイによる白い食痕が形成され、その面積の73%は、2週間のうちに藻類に覆われた。この白い食痕の面積が大きいほど、そのなわばり境界は、藻類がサンゴを被覆していく方向により拡張していった。一方、スズメダイはなわばりを放棄することがあり、スズメダイがいなくなれば、サンゴが藻類を被覆していくことが観察された。これらの結果から、スズメダイは、サンゴ組織を噛り食痕をつくりそこに藻類の着底を促して、それを飛び石としてサンゴ上に藻園を拡張していくこと、一方で、なわばりは放棄されることがあり、それがサンゴ群体の回復に寄与していることがわかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

新型コロナウイルス感染拡大のため、特に野外での調査が制限されたが、2021年11月に、沖縄本島周辺の瀬底島周辺海域において5種のなわばり性スズメダイについて野外調査を行うことができた。それにより、サンゴの大規模白化の影響のなわばり内外での違いについて、継続的にデータを得ることができた。それにより、サンゴの被度は、大規模白化後は、なわばり外では減少するが、一方クロソラスズメダイのなわばり内では逆に増加する傾向がわかってきた。なわばり内には、なわばり外に比べ高い頻度で出現する特徴的なサンゴ種が生育していることも分かってきたが、大規模白化後に、これらのサンゴはなわばり外では消失したが、なわばり内では被度に変化が見られず維持されることが分かった。これらのことから、なわばり内はサンゴにとって安定した環境であり、大規模白化の影響をあまり受けなかったことが示唆された。白化の影響を受けやすいとされるサンゴ種では、その被度は、大規模白化前ではなわばり外で高く、なわばり内ではほとんど見られなかったが、白化後はなわばり外で減少し、なわばり内で増加した。このことは、スズメダイのなわばり内が白化の影響を受けやすいサンゴ種の回復のための場所として機能している可能性が示唆され、今後、さらに追跡調査を行い検証を進める必要性が示された。

今後の研究の推進方策

令和4年度には、新型コロナウイルスに十分留意しながら、2015年より調査地としている沖縄本島周辺の3地点(瀬底島、恩納村、大度浜)において、高密度でみられるなわばり性スズメダイ6種(集約的な種から粗放的な種の順にクロソラスズメダイ、キオビスズメダイ、ルリホシスズメダイ、ハナナガスズメダイ、フチドリスズメダイ、アイスズメダイ)を対象とし、スズメダイのなわばり内外におけるサンゴ群集の回復過程を続けて追い、またサンゴ群集の遷移に影響を及ぼすスズメダイの干渉、競合する藻類の遷移、スズメダイによる藻食者、サンゴ食者の排除の観察を続ける。同時に、夏季にサンゴの大規模な白化がこれらの調査地で生じればその撹乱の影響を調べられるよう、なわばり内外のサンゴ群集について白化直後と、冬季に調査を行う。万一、新型コロナウイルス感染拡大のために野外調査が実施できなければ、これまで蓄積しているデータの解析に集中する。
得られた結果についてまとめ、学会発表を行う。

次年度使用額が生じた理由

フィールド調査に行く予定であったが、調査地の新型コロナウイルス感染拡大により訪問が不可能になったため。次年度に、新型コロナウイルスの感染状況をみながらではあるが、調査が実施できるようにする。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Population decline of an endangered unionid, Pronodularia japanensis, in streams is revealed by eDNA and conventional monitoring approaches2022

    • 著者名/発表者名
      Hata Hiroki、Ogasawara Kota、Yamashita Naoki
    • 雑誌名

      Hydrobiologia

      巻: inpress ページ: inpress

    • DOI

      10.1007/s10750-022-04852-6

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Complete mitochondrial genome of the Japanese field vole <i>microtus montebelli</i> (Milne-Edwards, 1872) (Rodentia: Arvicolinae)2021

    • 著者名/発表者名
      Sogabe Atsushi、Murano Chie、Morii Ryota、Ikeda Hiroshi、Hata Hiroki
    • 雑誌名

      Mitochondrial DNA Part B

      巻: 6 ページ: 2717~2718

    • DOI

      10.1080/23802359.2021.1917315

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 愛媛県の農業用土水路における絶滅危惧種マツカサガイ残存個体群2021

    • 著者名/発表者名
      畑 啓生、東垣 大祐、小笠原 康太、松本 浩司、山本 貴仁、村上 裕、中島 淳、井上 幹生
    • 雑誌名

      保全生態学研究

      巻: 26 ページ: n/a~

    • DOI

      10.18960/hozen.2111

    • 査読あり
  • [学会発表] 公開 灌漑用水路を生息場所とする流水性イシガイ類マツカサガイの環境DNAを用いた保全2022

    • 著者名/発表者名
      畑啓生, 山下尚希, 渡辺椋太
    • 学会等名
      日本生態学会第69回大会
  • [学会発表] 環境DNAと従来のモニタリング手法で明らかになった絶滅危惧種のイシガイ科二枚貝個体群の縮小2021

    • 著者名/発表者名
      畑啓生、小笠原康太、山下尚希
    • 学会等名
      環境DNA学会第4回大会
  • [学会発表] 自然分布域におけるヤリタナゴとアブラボテの交雑2021

    • 著者名/発表者名
      谷口倫太郎, 山下尚希, 畑 啓生, 橋口 康之, 武山 智博
    • 学会等名
      第55回魚類学会年会

URL: 

公開日: 2022-12-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi