研究課題/領域番号 |
20K06822
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
高橋 佑磨 千葉大学, 大学院理学研究院, 特任助教 (00707622)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遺伝子流動 / カワニナ / 適応進化 / 移住荷重 / 形態 / 行動 |
研究実績の概要 |
生物集団は進化を通じて、生息する環境に適応する。環境が空間的に連続して変化する場合には、その環境勾配に沿って表現型が連続的に変化することになる。このとき、緯度勾配のように環境の勾配が空間的に緩やかに生じるならば、個体が移動・分散によって著しく異なった環境に移動することはないが、標高勾配のように急峻な場合には、短距離の分散でも個体が大きく異なった環境に移動してしまい、適応度を低下させるリスクが大きくなるはずだ。したがって、急峻な環境勾配に沿って生息する生物では、移動を抑制するための表現型が進化する可能性がある。河川は、標高に沿って急峻な環境勾配が存在すると同時に、水流によって上流から下流への個体の移動が起こりやすいシステムである。そのため、河川に生息する生物は、水流の影響を受けにくい形態や水流に対抗して上流方向に移動する能力などが進化しているかもしれない。そこで本研究では、陸水の幅広い環境に生息するカワニナ類を用いて、殻形態と移動能力、塩分耐性、生物時計に着目し、河川形態と適応進化の関係を明らかにすることを目的とした。本年度は、カワニナ類の殻形態の種間比較を行なったところ、止水や緩流に生息する種ほど細長い殻形態になっていることがわかった。つぎに、複数の河川で採集したチリメンカワニナに関して同様の方法で河川間の形態比較を行なったところ、急峻な河川ほど殻形態は丸い傾向がみられた。ただし、本種においては、河川内の標高間での形態変化は認められなかった。最後に、実験室環境で産出した稚貝を用いて、個体の移動速度を測定したところ、流れの速い地点に由来する個体ほど移動速度が速い傾向がみられた。これらの結果は、カワニナ類において、殻形態と移動能力に関して流水適応が存在していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の影響で、計画していたサンプリングを遂行することができなかった。これにより、計画していた解析を実施することができなかったが、その代替の解析として、図鑑に掲載された既存の写真を材料に当初計画と同等の解析した。これにより、当初計画が著しく達成できないということは回避できたが、サンプル数やサンプリング地点が充分でない状態にとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、停滞していたサンプリングを再開することを第一の課題としている。また、サンプリングで得た個体を効果的に利用するため、実験室内の飼育装置を充実させる。そのうえで、全国各地の河川のさまざまな標高で捕獲した個体の形態、移動速度、遺伝子発現、活動リズムなどを測定する実験を実施する。これにより、これらの形質に関する適応進化の有無を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年度の前半に予定していた調査、サンプリングが予定通りに行なえなかった。このことで、旅費と実験に関連する物品費への支出が減少した。
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