研究課題/領域番号 |
20K06823
|
研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
須之部 友基 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (00250142)
|
研究分担者 |
久米 元 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (00554263)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 性転換 / アカオビハナダイ / 雌性先熟 |
研究実績の概要 |
アカオビハナダイはハタ科ナガハナダイ属の一種で雌性先熟の性転換を行うと考えられている.本研究では生殖腺の組織学的観察結果をもとに,鹿児島湾に生息するアカオビハナダイの繁殖生態について明らかにした.鹿児島湾内でSCUBA潜水により標本の採集を行った.標本は実験室に持ち帰り,標準体長,体重,体側の赤帯と各鰭の長さを測定した.解剖後,生殖腺の重量を測定した後, 10%ホルマリンもしくはブアン液で固定した.常法に従い組織切片を作製し,ヘマトキシレン・エオシンによる2重染色を施した後,光学顕微鏡下で観察した.合計399体を組織学的解析に供した(22.0-88.8mm).雌の成熟個体の出現状況から,産卵期は5-10月,盛期は7-9月,午前10-13時に採集した多くの雌(87個体中71個体)の生殖腺から排卵後濾胞が確認されたことから,産卵時刻は日の出前後と推定された.38.8mm以下の全ての小型個体の生殖腺(n=15)で精原細胞と精母細胞,周辺仁期の卵母細胞が確認されたため,本種は全ての個体がBisexual phaseを経由し,その後性成熟すると考えられた.雌のサイズは39.4-77.2mm,雄のサイズは62.7-88.8mm,雌の50%成熟サイズは41.8mmと推定された.全ての精巣から卵巣腔が確認された.本種には雌として産卵を経験する前に雄に性分化する一次雄と,産卵後に雄へと性転換する二次雄が存在すると考えられた(Diandric protogynous hermaphrodite).一次雄へ性転換中の個体は32.8mm,二次雄へ性転換中の個体は58.1-79.3mmでそれぞれ出現した.本種では雌の外観を示す個体で既に生殖腺に精巣部位が形成されており,その後赤帯と尾鰭が伸長し,雄への性転換が完了していた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では「高密度では体長調和配偶・雌雄異体,中型密度では一夫多妻・雌性先熟,低密度では一夫一妻・双方向性転換になる」という仮説を立て,アカオビハナダイを観察することでこの仮説を証明しようとした. 配偶システムについてはSCUBA潜水により300個体程度の中型群れと10000個体の大型群れを観察した.中型群れでは雌個体が隣り合う,群れに移動するのが観察され,群れは不安定であることがわかった.しかし,雄は複数の雌に求愛・産卵する典型的な一夫多妻の配偶システムで雌性先熟の性転換をすると思われ仮説の予想どおりとなった. 大型群れでは雄の中でもサイズが大きい雄は群れ上方に縄張りを作り多くの雌と産卵した.小型雄は水底近くに縄張りを持ち,産卵時になると群れの中に入り雌に求愛した.このように小型雄でも機会は少ないが産卵に参加することができることがわかった.さらに大型群れ付近に出現した幼魚の一部は性転換を経ずに雄になる一次雄であることがわかった.これは仮説が予想した雌雄異体個体と思われるのでさらに詳しく検討したい. 小型群れについては雄が含まれず,出現率も低いため中型,大型群れに集中して観察する予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で,アカオビハナダイは全ての個体が雌を経て二次雄になるのではなく,最初から雄として機能する一次雄も出現することが明らかとなった.そこで一次雄の出現場所と出現条件の特定することになった.今年度は毎月幼魚及び1歳の雄の追加採集する.採集した標本は計測後,組織学的に観察し一次雄かどうか判別する. 本種は300~10,000個体以上の様々な大きさの群れを形成する.まず300個体の小群に注目し配偶システムを明らかにする.雌にマーキングし、産卵期中に群れ間を移動するかどうか確認する.さらに群れ別の雄の繁殖成功を比較するために、繁殖行動を動画撮影し、産卵回数を比較する 10,000個体以上の大群の社会構造を明らかにするため,社会順位が高い雄10個体、低い雄を10個体採集し、体長・GSI・生殖腺構造・年齢の違いを調べる.さらにサイズ別に雄の繁殖成功率の違いを明らかにするために、各個体の回数回数を比較する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により鹿児島大学水産学部に出張し,鹿児島湾において潜水調査する予定であったが,1回も行けなかった.そのため5回の調査X50,000円=250,000円が次年度繰り越しになった.そこで今年度は予定通り,5回の調査を実施に加え,学会出席および論文の掲載費用として使用する予定である.
|