研究課題/領域番号 |
20K06834
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊介 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (30431951)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 転位因子 |
研究実績の概要 |
人類の脳の進化を引き起こした遺伝的基盤については多くが未解明であるが,遺伝子の発現調節の変化が主要な貢献をしたと考えられている。近年,ゲノム中の転位因子がホストの遺伝子発現調節を担うシスエレメントとして利用されていることが示唆されているが,ヒト特異的転位因子による遺伝子発現調節が実際にヒトの神経系細胞のどのような性質に関わっているかはほとんどわかっていない。本研究では,まず,ヒト特異的レトロトランスポゾンであるSVA F1がCDK5RAP2, MCT1/SLC16A1, TBC1D5遺伝子の神経系細胞における発現調節を担っていることを明らかにするため,SVA F1を両アリルで欠失させたヒトiPS細胞を神経系細胞に分化誘導した際の,ホス ト遺伝子の発現動態を野生型と比較する計画である。令和2年度では,CRISPR/CAS9システムによるゲノム 編集技術を用いて,各遺伝子中のSVA F1の上流および下流に設計したガイドRNAの間を抜 くことで,両アリルでSVA F1を欠失したヒトiPS細胞株を計3系統作出する実験計画に取り組んだ。現在のところ,iPS細胞以外の培養細胞では狙いどおりの欠失を引き起こすことができるガイドRNAを設計することができたが,ヒトiPS細胞を用いて同様の実験を行うと欠失が確認できないという状況である。遺伝子導入時に多数のiPS細胞が死滅していることが原因である可能性が考えられるため,この点について対策を行う必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
iPS細胞以外の培養細胞では狙いどおりの欠失を引き起こすことができるガイドRNAを使用しているにもかかわらず,ヒトiPS細胞を用いて同様の実験を行うと欠失が確認できないという状況であるため。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子導入時に多数のiPS細胞が死滅していることが,ヒトiPSを用いた時のみ欠失株が得られない原因である可能性が考えられるため,アポトーシスを抑制する遺伝子を同時に導入する等の工夫を行うことで,SVA F1欠失株の作出を急ぐ。その後,SVA F1の有無が神経系細胞におけるホスト遺伝子の発現にどう影響するかを明らかにするため,作出したそれぞれのSVA F1欠失ヒトiPS細胞および野生型ヒトiPS細胞,さらに元々SVA F1がないチンパンジー iPS細胞およびニホンザルiPS細胞を用いて神経系細胞への分化誘導実験を行い,分化に伴うホスト遺伝子の発現変化をリアルタイムPCRや免疫染色で解析し,比較することで,SVA F1は,神経系細胞においてCDK5RAP2, MCT1/SLC16A1およびTBC1D5の発現を上昇させる役割を担うのかを明らかにする計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒトiPS細胞を用いたゲノム編集実験が,思うように進まなかったため,次年度使用額が生じた。また,技能補佐員の募集を行ったが,応募者がなかったため,次年度使用額が生じた。令和2年度に遂行することができなかった実験計画を令和3年度の計画に合わせて遂行する予定である。
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