研究実績の概要 |
人類の脳の進化を引き起こした遺伝的基盤については多くが未解明であるが,遺伝子の発現調節の変化が主要な貢献をしたと考えられている。近年,ゲノム中の転位因子がホストの遺伝子発現調節を担うシスエレメントとして利用されていることが示唆されているが,ヒト特異的転位因子による遺伝子発現調節が実際にヒ トの神経系細胞のどのような性質に関わっているかはほとんどわかっていない。本研究では,まず,ヒト特異的レトロトランスポゾンであるSVA F1がCDK5RAP2, MCT1/SLC16A1, TBC1D5遺伝子の神経系細胞における発現調節を担っていることを明らかにするため,SVA F1を両アリルで欠失させたヒトiPS細胞を神経系細胞に分化誘導した際の,ホス ト遺伝子の発現動態を野生型と比較する計画であった。CRISPR/CAS9システムによるゲノム編集技術を用いて,各遺伝子中のSVA F1の上流および下流に設計したガイドRNAの間を抜 くことで,両アリルでSVA F1を欠失したヒトiPS細胞株を計3系統作出する実験計画に取り組んだ。iPS細胞以外の培養細胞では狙いどおりの欠失を引き起こすことができるガイドRNAを設計することができたが,ヒトiPS細胞を用いて同様の実験を行うと欠失が確認できないという問題の解決に時間がかかったが、現在までの研究成果として、TBC1D5遺伝子座のSVA F1において両アリル欠失株、MCT1/SLC16A1遺伝子座のSVA F1においてヘテロ欠失株を作成することができた。
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