研究課題/領域番号 |
20K06844
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
岩崎 賢一 日本大学, 医学部, 教授 (80287630)
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研究分担者 |
小川 洋二郎 日本大学, 医学部, 准教授 (60434073)
加藤 智一 日本大学, 医学部, 助教 (10786346)
田子 智晴 日本大学, 医学部, 助手 (70780229)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 体液シフト / 脳血流調節 / 高二酸化炭素血症 / 頭低位 |
研究実績の概要 |
文部科学省の「感染拡大の予防と研究活動の両立に向けたガイドライン」に基づいた対策を前年度実施し、研究者と被験者の十分な感染予防を行いながら実験ができるように研究室の整備を行ったので、2021年度は、感染対策をしながら実験を行うことができた。また、当初は年度ごとに頭低位の角度をかえて実験を行う計画であったが、それを変更し、1被験者について3つ全ての頭低位角度の負荷をランダムな順番で日を変えて「短期間で同一被験者の反復測定」を行い、被験者選定の手続きの時間の削減と、コロナ禍における被験者募集の困難さへ対策した。その結果実験が加速し、2021年度は、感染対策をしながら被験者14名に3つ全ての頭低位角度の負荷を実施できた。その結果、頭低位の強度を増すことで閾値をもって交感神経活動関連する周波数帯の血圧変動を減弱させる可能性や、予想通り高二酸化炭素により脳血流が増加するものの予想に反し頭低位30度までの体液シフトは付加効果を示さない可能性が判明し、学会発表を行った。また、頭低位中は、静脈血のうっ滞によって還元型ヘモグロビン量が増し脳内酸素飽和度が低下することを予想していたが、予想に反し脳内酸素飽和度が上昇する可能性を捉えて詳細な検討を行い発表準備をしている。 また、以前行った「空気呼吸下0度水平、および10度、30度の頭低位の実験」の測定データの脳血流速度波形と血圧波形を解析し、頭蓋骨内の圧力(頭蓋内圧)の評価と、急速な血圧変動に対する脳血流自動調節機能の評価を行い検討した。その結果、空気呼吸下0度水平と10度頭低位に比べて、空気呼吸下30度の急峻な頭低位においては、頭蓋内圧が有意に上昇するが脳血流自動調節は悪化せず維持されているという新知見が得られ、アメリカ生理学会のJournal of Applied Physiology誌にオープンアクセスで原著論文として発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度にはコロナ禍にともない通常の実験の開始ができなかったが、コロナ禍においても本実験をするための整備を行った結果、2021年度は感染対策をしながら、感染者を出すことなく問題なく実験が実施できた。また特に、年度ごとに頭低位の角度をかえて実験を行う計画であったのを変更し、1被験者について、3つ全ての頭低位角度の負荷をランダムな順番で日を変えて、年度内の期間で行う(一定期間での同一被験者の反復測定)。それにより、被験者選定の手続きの時間の削減と、コロナ禍における被験者募集の困難さへの対策ができた。そして2021年度内に研究期間全体での目標被験者の半数(10名)程度で「3%二酸化炭素含有ガス吸入下5度、および15度、30度の頭低位負荷」(延べ30回)を実施し、研究実施の遅れを取り戻すことを予定していたところ、実際には14例の測定を終了し、遅れを完全に取り戻した。中間解析までで得られた成果について学会報告を行ったり、発表の準備を行ったりしている。 さらに、2020年度の遅れを取り戻すために2021年度からの実験実施の加速、および、より有意義な情報を多く効率的に捉えられるよう、以前に実施した「空気呼吸下0度水平、および10度、30度の頭低位の健康被験者実験」で得たデータにおいて、頭蓋内圧と脳血流自動調節の両者を同時に解析評価した。その結果、急峻な頭低位で頭蓋内圧は増加するが脳血流自動調節は保たれるという興味深い結果を得て英文論文としてアメリカ生理学会の雑誌に原著論文として公表ができた。その過程において頭蓋内圧変化と脳血流自動調節の評価を同時に行い検討するための効率的なデータ処理の手順や解析方法が確認できた。2021年度は当初予定したデータ解析に加えて、このデータ処理と解析の方法を用いて頭蓋内圧変化と脳循環自動調節の同時解析を効率的に行うことができている。
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今後の研究の推進方策 |
開始当初の計画通り、今年度までに、3通りの負荷(5度、15度、30度の頭低位+3%二酸化炭素負荷)の完遂被験者を20名とすることを目標として、コロナ禍の状況の変化を注視しつつ、感染対策を十分に行い実験実施する。実際には、すでに14名の被験者の実験を完了しているので、今年度中に残り6名の実験終了を目指し、予定した脳血流自動調節機能の解析を行い検討する。得られた結果について発表準備を行う。また、「空気呼吸下0度水平、10度、30度の頭低位実験」のデータ解析を行い頭蓋内圧変化と脳血流自動調節機能の関係で興味深い結果を得て論文発表できたことを受けて、頭蓋内圧の追加解析を継続し検討していく予定である。つまり、高二酸化炭素負荷が加わったことで、体液シフト単独より頭蓋内圧上昇の程度が増すかなどを検討する(高二酸化炭素影響により脳の細動脈血管が拡張し、それにより頭蓋内圧の更なる上昇があるか、その場合、脳血流の自動調節は悪影響を受けるか?)。 もしコロナ感染状況が極端に悪化するなどで今年度中にデータ測定を完遂できた被験者数が目標に達しなければ、2023年度に追加実験を行う。 一方、当初計画以上に研究が進捗する場合は、今年度中に、以下の追加実験や先行実験の保有データの解析を開始する予定である。まずは、頭低位中には静脈血うっ滞により還元型ヘモグロビン量が増し脳内酸素飽和度が低下することを予想していたが、予想に反し脳内酸素飽和度が上昇する可能性がでてきている。そのため、頭低位単独の脳内酸素飽和度の変化について、保有データを解析し検討する。また、高二酸化炭素単独の負荷や頭低位単独の負荷中に脳組織酸素飽和度を測定する追加実験を行い、脳組織酸素飽和度の変化に与える、高二酸化炭素血症と体液シフトの各々の因子の寄与について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度もコロナ禍の影響で宇宙医学関連の学会の開催予定が不確定になったり、発表がオンラインとなったり、対面クローズドの情報交換会が行われなかったりした。そのため、成果発表の効果や情報取得・交換をより充実化するため、予定していた成果発表の一部などを2022年度以降の日本の学会や、米国の宇宙医学関連学会、NASAのヒト対象研究者の会議などで行う様に方針を切り替えた。そのため2021年度で出張費用が未使用になったものを2022年度以降の出張や発表準備に用いる予定である。 また、以前に実施した「空気呼吸下0度水平、および10度、30度の頭低位の実験」で得たデータにおいて、頭蓋内圧と脳血流自動調節の両者を同時に解析評価し検討した。その結果、急峻な頭低位で頭蓋内圧は増加するが脳血流自動調節は保たれるという興味深い結果を得てアメリカ生理学会の雑誌に原著論文として公表ができた。その過程において頭蓋内圧変化と脳血流自動調節の評価を同時に行い検討するための効率的なデータ処理の手順や解析方法が確認できたので、今後も当初予定したデータ処理と解析方法に加えて、この方式においてもデータ処理、解析を行い、追加の成果発表も行う予定である。そのために必要となる支出にも助成金を使用する計画である。
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