研究課題/領域番号 |
20K06848
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
小野寺 章 神戸学院大学, 薬学部, 助教 (40598380)
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研究分担者 |
河合 裕一 神戸学院大学, 薬学部, 教授 (00102921)
角田 慎一 神戸学院大学, 薬学部, 教授 (90357533)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リソソーム / SPM / インフラマソーム |
研究実績の概要 |
慢性炎症を伴うぜんそくやアトピー性皮膚炎は、環境中の様々な因子によって症状が悪化することが知られており、大気中の浮遊粒子状物質(SPM)は代表的なリスク因子の一つである。本課題では、慢性炎症の原因と考えられているインフラマソーム経路を活性化するSPMの作用機序を明らかにするため、オルガネラ損傷との関連について検討した。 そこで、乳酸脱水素酵素LDHを指標とする細胞傷害性、リソソーム指向性のアクリジンオレンジ(AO)を用いたリソソームの安定性、蛍光プローブCellROXを用いた活性酸素種産生へのSPMの影響を、自然免疫の第一関門の一つであるヒト気道上皮細胞BEAS-2Bを用いて評価した。SPM様物質の24時間処置では、細胞傷害性の増加及びリソソームの安定性低下が観察されたものの、活性酸素種は増加しなかった。これらは、エンドサイトーシスにより取込まれたSPMが初期・後期エンドソームを介してリソソームへと輸送されるものの、SPMを消化分解することはできずにリソソーム損傷を伴う細胞傷害性を誘発したと考えられた。生体内のリソソームは、結晶性の物質により損傷され、炎症反応が誘導されることが報告されている。SPMによる炎症反応においても類似の作用機序の関与が強く示唆された。 次に、マウスの足底内にSPM様物質を投与し、1週間後に投与部位におけるサイトカイン・ケモカインのmRNA遺伝子発現を解析した。その結果、インフラマソームによって活性化される炎症性サイトカインのIL-18、Toll様受容体経路を介するIL-6の有意な増加が観察された。 これら結果は、SPMによる炎症反応にはインフラマソームを含む様々な経路の活性化の関与を強く示唆するものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究の柱となる3つの課題のうち、1つについては仮説に基づく成果の実証を終えており、残りの2つについても予備的検討が進んでいる為。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討では、SPM様物質がリソソームの安定性を低下させることを見出しているが、細胞内に取込まれたSPMは細胞内に様々な部位に局在しており、他のオルガネラ損傷との関連も考えられる。これまでにミトコンドリア損傷を介するインフラマソームの活性化との関連が報告されていることから、ミトコンドリア膜電位の安定性を指標とする解析を実施することで、SPMの標的となるオルガネラを明らかにする。 SPMの曝露によりmRNA発現の増加するIL-18は、インフラマソーム(Caspase-1)の活性化により前駆型のPro-IL-18から成熟型のIL-18となる。そこで、Caspase-1活性、及び成熟型IL-18の分泌量を定量評価し、SPMがインフラマソームを活性化し、炎症性サイトカインの分泌を惹起するか否かを明らかにする。 SPMが炎症性疾患の症状を悪化させるか否かを明らかにするため、アトピー性皮膚炎(AD)のモデル動物を用い、発症や治療過程でのSPMの影響を解析する。ADモデルは、接触性皮膚炎のモデル化合物であるDNCBを用いて作成し、感作後のマウスへADを誘導する際、及びステロイド剤で治療する際にSPMを曝露させ、ヒトで危惧されるようなAD症状の悪化が観察されるか否かを明らかにする。 以上の研究と共に、SPMがインフラマソームを活性化する分子メカニズムを明らかにするため、従前から計画しているレドックス制御やダイオキシン受容体との関連についても研究の進捗に応じて適宜進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、予定していた学会発表を取りやめ、次年度に計画しているCaspase-1の解析のための費用へ充当する。
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