研究課題/領域番号 |
20K06848
|
研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
小野寺 章 神戸学院大学, 薬学部, 助教 (40598380)
|
研究分担者 |
河合 裕一 神戸学院大学, 薬学部, 名誉教授 (00102921)
角田 慎一 神戸学院大学, 薬学部, 教授 (90357533)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | リンパ節 / 樹状細胞 |
研究実績の概要 |
生体外異物に対する免疫応答は、樹状細胞による取込みからはじまり、リンパ節への移行と抗原提示によりT細胞を中心とする免疫応答が活性化される。大気中の浮遊粒子状物質(SPM)も類似の機序により生体内で処理されると考えられるものの、これら詳細は明らかでない。そこで本研究は生体内でSPMが樹状細胞に取込まれるか?またSPMはリンパ節へ運ばれるか?の解明に取組み、以下の新知見を見出した。 1. マウスの皮下へSPMを投与し、1週間または2週間後にリンパ節を摘出、黒色のSPMがリンパ節へ移行・蓄積するか否かを肉眼によるマクロ組織観察により評価。SPM投与から2週間後のリンパ節では黒色のSPMの移行・蓄積が観察され、1週間後のリンパ節では観察されなかった。 2. SPMの蓄積が観察されたリンパ節において、生体外異物の輸送を担う樹状細胞が関与するか否かをフローサイトメーターによる表面抗原分析により評価。SPM投与から2週間後のリンパ節では、活性化した樹状細胞に認められるCD11bの陽性を示す細胞集団が有意に増加した。 3. SPMの蓄積したリンパ節のパラフィン切片を作成し、PAS染色後の組織標本を光学顕微鏡でミクロ組織観察し、リンパ節におけるSPMの分布を評価。黒色のSPMは、リンパ節の傍皮質領域に観察された。 これら結果は、自然免疫の中心を担う樹状細胞がSPMをタンパク抗原と同じように処理するまたはしようとしていることを示している。一方で、SPMはプロテアーゼにより分解されることはなく、このような不要物がリンパ節へ移行蓄積することが、細胞・生体レベルでの炎症反応を増悪さえると示唆され、これら解明が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
浮遊粒子状物質(SPM)が炎症応答やこれらに関わる疾患の発症や悪化との関連は多々示唆されているものの、免疫応答に関連した生体内でのSPMの挙動は明らかでない。本課題では、皮下に投与した黒色のSPMがリンパ節に運ばれること、活性化樹状細胞がリンパ節で増加していることを確認した。さらにSPMの蓄積したリンパ節では、炎症性サイトカインの遺伝子発現が増加しており、タンパク抗原などの刺激により炎症が増悪または速やかに誘導されると考えられる。このようなSPMの蓄積は、細胞レベルでも確認しており、SPMを投与した気道上皮細胞では、24時間程度で細胞質が真っ黒に見えるほどSPMが蓄積・取込まれていた。これまでの研究では、SPM自身の傷害性やSPMによる炎症性物質の誘導が毒性発現機序の中心と考えられているが、組織や細胞内でのSPMの蓄積がヒト健康を害する根本的な原因となっている可能性が示唆され、次年度(最終年度)にこれら解明に取組む。
|
今後の研究の推進方策 |
生体内・細胞内成分により浮遊粒子状物質(SPM)を分解・除去することは困難と考えらえれ、免疫応答の場であるリンパ節や細胞内分解の場であるリソソームに蓄積することが、炎症惹起の機序の一つと考えられる。そこで本研究では、リンパ節に移行・蓄積したSPMがどの程度(期間)蓄積するかを明らかにする。具体的には、マウス背部皮下にSPMを投与し、一定期間後に皮下に残ったSPMを外科的に除去する。1、3、6カ月後に、これらマウスからリンパ節を摘出し、肉眼によるマクロ組織観察と組織標本を用いる光学顕微鏡でのミクロ組織観察によりSPMがどの程度の期間と量がリンパ節に残存し続けるか明らかにする。さらに、SPMの蓄積したリンパ節を持つマウスがアレルギー性の病態形成またはその後の回復への影響を明らかにする。具体的には、マウス背部皮下にSPMを投与し、その2~3週間後から、MC903を用いるアトピー性皮膚炎モデルを作成する。MC903による皮膚炎の形成と程度は、MC903を塗布する回数に依存して悪化することから、SPMの前投与によって皮膚炎が発症しやすい状態になると考えられる。皮膚の肥厚と共にリンパ球の分類や活性化状態を解析し、SPMの蓄積によりどのような免疫応答が惹起されるかを明らかにする。また、細胞内に蓄積したSPMと免疫応答との関連を明らかにするため、インフラマソームを活性化や炎症性サイトカイン産生との関連を明らかにする。具体的には、予めSPMを取込ませた上皮細胞に、PMA、Ionomycin、酸化剤やLPSを処置し、これらによるIL-1βやIL-6のmRNAレベルでの転写調節と細胞外に分泌されたこれら成熟体の定量評価と共に、NF-kBやSTAT-3を中心とする細胞内活性化シグナルの役割とかかわりを解明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、オンサイトでの参加を予定していた学会がオンラインに変わったため、これらによって発生した旅費の残額等を、次年度の動物実験の費用へ充当する。
|