研究課題
大気中の浮遊粒子状物質はぜんそくやアトピー性皮膚炎の増悪因子として広く知られており、この機序の一つに炎症性サイトカインの産生が挙げられる。本研究においても、マウス背部皮下やヒト樹状細胞への浮遊粒子状物質の曝露によりIL-1、IL-6、INF-αそしてINF-βのmRNA発現が有意に増加することを確認している。一方、これら炎症性サイトカインのmRNA発現の程度は、臨床症状の炎症惹起と乖離しており、単純な浮遊粒子状物質の過剰曝露実験では投与から数週間~半年経過しても投与部位での炎症症状は観察されなかった。しかしながら、投与部位近傍のリンパ節では浮遊粒子状物質の蓄積が投与から半年経過後も観察され、蓄積を原因とする免疫力の低下との関連が危惧された。動物実験では、遊粒子状物質を3カ月間蓄積したリンパ節において、樹状細胞の誘因や免疫寛容を制御するCCL19、IL-10、TGF-β、RALDH2のmRNA発現の有意な低下が観察された。ヒト気道上皮細胞とヒト樹状細胞を用いた解析では、浮遊粒子状物質の細胞内取込みが処置後数時間で確認され、この状態でも細胞は生存し続けていた。浮遊粒子状物質を予め取込ませた樹状細胞は、その後の貪食能が有意に低下しており、リソソー局在型のTLR7によるインターフェロン応答の有意な低下も観察された。浮遊粒子状物質を取込んだ気道上皮細胞は、リソソーム内腔の酸性pHの恒常性が低下しており、この原因の一つにリソソーム小胞を利用した分泌小胞の形成との関連を見出した。以上は、日常的に曝露し続けている浮遊粒子状物質が生体内・細胞内での蓄積により免疫力を低下させること、細胞内分解系を担うリソソームの安定性を低下させることを示しており、生体・細胞レベルでのクリアランスの維持が浮遊粒子状物質の生体影響の回避・軽減に有効であると考えられた。
すべて 2022
すべて 学会発表 (4件)