研究課題/領域番号 |
20K06850
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
山崎 匡 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (40392162)
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研究分担者 |
五十嵐 潤 国立研究開発法人理化学研究所, 情報システム本部, 上級研究員 (60452827)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小脳 / シミュレーション / マルチコンパートメント / ネットワーク |
研究実績の概要 |
神経細胞 (ニューロン) の複雑な形態は、それそのものが高度な情報処理機構を担っていることが示唆されている。単体でも十分複雑な形態を持つニューロンが多数接続したときに、ネットワークとしてどのような機能が実現されうるのか、また形態の変化がどのような機能の変化を引き起こすのかを、詳細な神経回路モデルの大規模数値シミュレーションによって検討する。形態を考慮した数値シミュレーションには膨大な時間がかかることが知られているので、まず数値計算法を再検討するところから研究をスタートし、十分高速化したところで実際の神経科学研究に入る。 当該年度は、まず並列計算用ハードウェアを駆使して数値シミュレーションを大幅に高速化することに成功した。ハードウェアの性能を引き出すために従来は数値安定性の面で避けられてきた陽解法を積極的に導入し、安定性を担保しつつ高速化することができた。論文を査読付き国際誌に投稿中である。また対象とする脳部位として小脳を選択し、顆粒細胞・ゴルジ細胞・プルキンエ細胞・下オリーブ核を全て形態と様々なイオンチャネル群を考慮したマルチコンパートメントモデルで実装し、非常に精緻な小脳ネットワークモデルを構築した。前述の数値計算法を駆使して非常に高速に大規模なシミュレーションを実施することができている。それにより、ニューロン同士の電気的な結合によってネットワーク全体が同期的に発火することを確認し、先行研究の結果の再現に成功している。その一方で個々のニューロンの情報処理機構についても検討し、形態を持つことで例えばシナプス入力の時空間刺激パターンの弁別ができることを確認するなど、形態の重要性を示唆する結果をいくつか得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、当初の計画通りケーブル方程式向けの陽解法による並列計算法を確立しマルチコアCPUでの実装を完了した。さらにそれを大幅に超えて並列計算用ハードウェア (GPU) への実装も終え、CPU版と比べて100倍程度の高速化を達成した。100倍の高速化はブレークスルーであり、研究の推進に非常に大きな役割を果たしている。次に、当初計画では令和3年度以降の予定だった論文投稿を既に済ませており、現在査読中である。予備的な成果は2020年度の日本神経科学学会で発表し、国内トラベルアワードを受賞している。関連論文を1本と解説論文を1本出版している。また当初計画にはなかった下オリーブ核のマルチコンパートメントネットワークモデルも構築し、組み込むことに成功している。さらに、当初計画では眼球運動を題材としてプルキンエ細胞の形態の変化とゲインの変化を関係を検討する予定であったが、より一般に、形態の変化に伴うプルキンエ細胞の同期的・非同期的発火パターンの変化がどのように小脳核の発火パターンに影響を与えるのか、また平行線維シナプスの長期抑圧に影響を与えうるのかを検討している。 以上をまとめると、数値シミュレーションにおける計算法の研究と、ニューロンの形態の機能的役割に関する神経科学研究の両方で当初計画を大幅に超えて伸展しているため、上記区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は形態の変化に伴うプルキンエ細胞の同期的・非同期的発火パターンの変化がどのように小脳核の発火パターンに影響を与えるのか、また平行線維シナプスの長期抑圧に影響を与えうるのかについて結果をまとめ、論文として査読付き国際誌に投稿する。さらに、カルシウムチャネルを含む詳細なイオンチャネル群を持つマルチコンパートメントモデルの特性を活かして、ニューロンの電気的特性の変化のみならず、カルシウムのダイナミクスの変化についても詳細に検討していく。また、平行線維シナプス可塑性における機能的役割についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、まず世界情勢により海外国内を問わず出張が不可能になってしまったことがあげられる。また職場の一時閉鎖に伴い物品購入が難しくなったこと、謝金業務ができなくなってしまったことも理由である。今後の使用計画は、状況回復後の人件費に充当する予定である。
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