研究実績の概要 |
学習・記憶の素過程は、ニューロン同士の接着部位(シナプス)において伝達効率の上昇が長期的に持続する長期増強(LTP)であり、樹状突起スパインの構造変化である。スパインの構造変化はアクチン細胞骨格の重合により引き起こされるが、体積変化が数時間以上持続する基盤と電気応答の持続に関与する分子機構は不明な点が多い。申請者は第4の細胞骨格と呼ばれる重合性ヌクレオチド結合蛋白質であるセプチン細胞骨格の神経系における役割を探索している(Ageta-Ishihara et al., Nature Commun 2013, 2015, Neurochem Int 2018, 2019年度日本神経科学学会奨励賞)。その中で、セプチンサブユニット欠損マウスが記憶保持障害を示すこと、LTP誘導に伴い成熟スパインが増加すること、セプチンサブユニット欠損マウスではスパイン形態は正常であるが成熟スパインが少ないことを見出した(Ageta-Ishihara et al., 投稿準備中)。本研究では成熟スパインが作り出される機構と意義を明らかにすることを目指した。最終的に、“刺激に対するオルガネラの移動”が長期記憶維持に影響を及ぼすことを示す新たな概念を提示することに成功した。今後は、認知症の治療戦略に繋ぐことを目指して、得られた基礎データに基づく、創薬や治療法の基盤となる技術開発に取り組むことを目指す。高齢化社会が進む中で基礎研究を健康寿命の延命に繋げる。
|