脳梗塞は、我が国が直面する大きな課題の一つである。寿命の延長とともに脳血管疾患は増加し、心疾患と合わせると日本人の死因の第1位であり、後遺症が残り介助が必要となる原因として、認知症と並んで最も多い。脳梗塞超急性期に対する血栓回収・血栓溶解療法は進歩しているものの限定的であり、亜急性期以降の再生を促進する治療法は十分に開発されていない。 本研究の目的は、脳梗塞において、オリゴデンドロサイトとその前駆細胞(oligodendrocyte precursor cell、OPC)が、どのように神経系、グリア系、血管 系を含めた周囲の細胞と相互作用し、病態に関与しているのかを明らかにし、脳梗塞に対する治療応用へと展開する研究基盤を確立することである。 脳梗塞病態と関連して、低酸素環境によってOPCの形質・機能が下記のように変化することを見出した。1)脳梗塞マウスモデルにおいて、大脳皮質領域で血管周囲のOPCが増加し、脳梗塞後の血管新生と連動する。2)高度の低酸素負荷をかけた初代培養系OPCは、血管新生促進因子を多く発現、分泌する一方で、OPC分化因子は低下する。3)高度の低酸素負荷をかけた初代培養系OPCは、in vitro、in vivoのどちらの系においても、血管新生を促進する作用をもつ。4)中等度~軽度の低酸素負荷をかけた初代培養系OPCでは、血管新生促進因子が低下する一方で、OPC分化因子は亢進する。以上のことから、脳梗塞後の領域や時相により、脳内の低酸素レベルが変化することに伴い、OPCの形質や周囲の細胞種との相互連携がダイナミックに変容していく可能性が考えられる。 また、上記の知見をふまえて、高度の低酸素負荷をかけたOPCを脳梗塞モデルマウスに対して、発症3日目に移植すると、14日目において、血管新生が促進し、脳梗塞体積が減少、機能が改善することを見出した。
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