研究課題/領域番号 |
20K06857
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
沼川 忠広 熊本大学, 発生医学研究所, 特定事業研究員 (40425690)
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研究分担者 |
小高 陽樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (40831243)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | iPS細胞 / ミクログリア / ニューロン / ライソゾーム病 / 中枢神経系 |
研究実績の概要 |
本研究では、GM1-ガングリオシドーシス、シアリドーシスなどの中枢神経系に異常を呈するライソゾーム病において、ニューロンの異常のみならず、ミクログリアの病態への寄与の可能性を検討する。これまでに、我々の報告した方法(Kajihara R, Numakawa T, and Era T., Bio Protoc. 2021)を用いて、ヒトiPS細胞から大脳皮質ニューロンを分化させ、例えばGM1-ガングリオシドーシスニューロンにおける開口放出低下などを見出している(Kajihara R, Numakawa T, et al., Stem Cell Reports. 2020)。研究初年度では、ヒトミクログリアを新たに作出し、ニューロンとの共培養系(健常ニューロン+健常ミクログリア)を用いて、ミクログリア添加後ではニューロンの開口放出機能が減少することを発見した。 本年度では、確立したニューロンーミクログリア共培養系を用いて、疾患ミクログリアの影響を解析した。健常ニューロン(N2-1)を成熟させ、そこに別の健常iPSC由来のN3-2または疾患(GM1-A360)ミクログリアをそれぞれ添加し、さらに2週間の共存培養を行った。その後、FM1-43色素を用いて神経機能を測定した。その結果、GM1-A360ミクログリアに比べN3-2ミクログリア添加群では、ニューロンの開口放出機能がより抑制される傾向があった。次に、後シナプス反応を見るため、カルシウムイメージングを実施した。N2-1ニューロン単独培養をコントロールとし、シアリドーシスニューロン単独、またはそこにN3-2ミクログリアを添加した共培養系を作成した。興味深いことに、健常に比べ疾患ニューロンのカルシウム亢進を観察したが、これがミクログリアの共培養系において抑制された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ライソゾーム病における神経異常において、細胞レベルでの病態の詳細はほとんど不明である。ニューロンもしくはミクログリアの細胞レベルでの異常に着目した研究は、それぞれの細胞種個別に実施されたものが散見されるが、実際の脳内のようなそれらの細胞の相互作用についてはほとんど明らかにされていない。そこで本年度、著しい中枢神経系の異常を呈するGM1ガングリオシドーシスおよびシアリドーシスに注目し、それぞれのニューロンおよびミクログリアの相互作用にアプローチすることを基礎にした機能解析を実施した。そして、健常および疾患iPS細胞を利用してヒトニューロンおよびヒトミクログリアの共存培養のシステム構築を行い、ミクログリアの神経機能への積極的な関与の可能性を見出した。例えば、健常ニューロンの神経伝達物質放出作用に対して、GM1ガングリオシドーシスミクログリアでは、健常ミクログリアの場合とはことなる作用を及ぼすことを、本年度の解析で明らかにした(プレシナプス、FM1-43イメージング)。さらに興味深いことに、シアリドーシスニューロンでは、健常に比べて後シナプス応答であるカルシウム上昇が異常亢進することを報告したが(Odaka, Numakawa et al., Neurobiol Dis. 2021)、この異常応答をミクログリアが緩和する可能性を見出した(未発表)。分子レベルでのメカニズム解明は今後になるが、細胞レベルでの病態において、ミクログリアの積極的な寄与を明確にしつつあるため、本研究課題の進捗状況はおおむね順調であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、シナプス機能に対するミクログリアの作用を評価する系として、神経伝達物質放出(前シナプス)を可視化する色素FM1-43を用いたリアルタイムイメージングを実施した。さらに、後シナプス機能の評価系として、脱分極刺激における細胞内カルシウム濃度上昇を可視化した。特に、色素Fluo-4を用いたカルシウム解析では、我々が報告したシアリドーシスニューロンにおけるカルシウム応答亢進(Odaka, Numakawa et al., Neurobiol Dis. 2021)において、健常ミクログリアが異常を緩和する現象を見出している(未発表)。アルツハイマー病などの神経変性疾患では、カルシウム亢進が細胞生存へ悪影響を与えることを示唆する研究が多く報告されているが、GM1ガングリオシドーシスやシアリドーシスなどにおいて、このカルシウム亢進が病態に関係しているかはまったくの不明である。そこで、今年度では新たに、様々な成熟段階におけるニューロンへの健常および疾患ミクログリアの影響を、シナプス前、後機能の評価でさらに精査し、特にカルシウム動態破綻に関連する神経細胞死の解析を並行して行う予定である。ここでは、成熟したニューロンのみならず、未熟な発達段階におけるニューロンへのミクログリアの影響にも着目したい。また、見出された神経機能のミクログリア共存による変化を裏付けるような分子の発現変動にも着目する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現段階で、健常ヒトミクログリアのみならず、疾患(GM1-ガングリオシドーシス)ミクログリアの作出にも成功ており、ニューロンの成熟度(または分化段階)の異なる様々なタイミングでの共存培養の検討を実施し、ニューロンの機能的変化における新しい知見を得ている段階である。今年度では、健常ニューロンに対するミクログリアの影響を、細胞の生存や、神経機能関連分子の発現変化までを解析する予定である。細胞の生存や、分子の発現変化では、これまでのイメージング法を用いた機能解析とは異なり、より均一で、量的に十分な細胞数の確保が成功のカギとなる。そのため、細胞維持に重要な試薬や培地などが多くの容量で必要となり、細胞維持のためのコストは増加する。また、細胞死測定のための適切な時期を精査するためには、細胞死に密接に関連すると想定したカルシウム動態などの追加実験は必須であり、神経成熟段階においてより多くのタイミングでの解析が重要となってくる。このため、今後は相応の消耗品の費用増加が必予想されるため、次年度使用額が生じた。
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