動物が天敵と対面した際、動脈血圧、心拍数および呼吸数の急激な増加等を特徴とするストレス防衛反応と呼ばれる反応がみられるが、この反応に視床下部領域が重要な役割を果たしている。本研究課題では、in vivo ファイバーフォトメトリーシステムを使用して、自由に動いている最中のマウスの視床下部オレキシン神経活動と心拍数変化を同時記録することにより、ストレス防衛反応に対するオレキシン神経活動の役割を調べた。その結果、嫌悪ストレス刺激を与えた直後に自律神経反応の指標である心拍数とオレキシン神経活動が増加することが明らかとなった。これらの反応を詳細に解析したところ、心拍数の急激な上昇に先がけてオレキシン神経活動が上昇している可能性が示唆された。さらに、マウスの心拍およびオレキシン神経が反応しないよう調整した音を条件付け刺激として用いて条件付け実験をしたところ、条件付け後には心拍応答およびオレキシン神経の増加が見られるようになった。これは、オレキシン神経が嫌悪感情を自律神経応答と結びつける役割を担っている可能性を示している。以上これまでの本研究課題の結果は、嫌悪ストレス刺激に誘発される自律応答に対するオレキシン神経の役割を明らかにした。今後は、オレキシン神経の投射先領域においてファイバーフォトメトリー法を用いて in vivo 計測を行い、下流神経回路を明らかにしていくことで、オレキシン神経を基軸としたストレス誘発自律応答の神経回路の全容を明らかにしたい。また、これまでの急性ストレスによる影響にくわえ、慢性的なストレスによるオレキシン神経と自律応答の関わりについても調べる予定である。これらの成果により、オレキシン神経活動のストレス誘発自律応答回路を明らかとなり、過度なストレスによる自律神経機能異常に関わる全ての疾患に対する治療標的としてのオレキシンの可能性を検証することができると考えている。
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