興奮性シナプスの後部構造である樹状突起スパインの数や形態は発達や学習・記憶に応じて変化し、これが高次脳機能の発現に寄与していると考えられている。このようなスパイン形態形成の制御には神経活動が必要であるが、神経活動がどのようにしてスパイン形態を変化させるのか、その詳細な分子機構は十分に解明されていない。本課題はこの疑問を解明するために、細胞内小胞輸送とアクチン細胞骨格の再構成を制御する低分子量Gタンパク質Arf6を活性化するグアニンヌクレオチド交換因子 (GEF) であり、スパイン形態形成の制御に関与することが知られているEFA6Aに着目した研究を行うものである。 昨年度までの研究から、海馬神経細胞に発現しているEFA6Aは高度にリン酸化されており、その中に発達過程および神経活動に依存してリン酸化状態が変化する部位があることを見出している。そして細胞株を用いた実験系により、その部位のリン酸化を担うリン酸化酵素Xを同定し、さらにはリン酸化状態に応じてEFA6AのGEF活性が制御されていることについても明らかにしている。 本年度は、神経細胞におけるEFA6Aのリン酸化の生理的意義を明らかにするための研究を行った。培養海馬神経細胞をリン酸化酵素Xの阻害剤で処理したところ、EFA6Aの細胞内局在が顕著に変化することが分かった。また、神経細胞に刺激を行ったところ、EFA6Aのリン酸化状態が一過的に変化したが、それに伴いEFA6Aの細胞内局在やArf6の活性化レベルも一過的に変化することを明らかにした。これらの結果から、EFA6Aのリン酸化状態の変化がEFA6Aの細胞内局在やGEF活性を変化させることにより、細胞内のArf6活性の時空間的に制御しており、これが発達過程や神経活動に応じたスパイン形態の変化に寄与している可能性が考えられた。
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