研究実績の概要 |
脊椎動物の神経軸索の多くは生後軸索周囲に髄鞘が形成されることにより、ランビエ絞輪から絞輪へと跳躍伝導が可能になる。このランビエ絞輪部両隣には髄鞘と軸索を繋ぎ止める膜間結合paranodal axoglial junction (AGJ) がある。AGJ形成には軸索側の細胞接着分子Casprおよびcontactin、髄鞘側のNeurofascin-155が必須であり、AGJ形成後に電位依存性Na+チャネルはランビエ絞輪に電位依存性K+チャネルはjuxtaparanodeへ集積しクラスターを形成する。AGJは軸索表面のチャネルの局在変化・維持に必須の障壁である。申請者はAGJがそれ以上に軸索機能維持、軸索輸送およびカルシウム恒常性維持、さらには樹状突起形成にも重要な部位であると考え、その証拠を得るためにAGJ形成不全を呈するcerebroside sulfotransferase(CST)欠損マウスを用いて研究を行ってきた。最終年度では特に小脳プルキンエ細胞樹状突起の変化に焦点を当てた。 MAP2およびプルキンエ細胞に豊富に存在するCalbindin, IP3R1に対する各抗体を用いた組織学的解析の結果、正常マウスの分子層ではほぼ均一に染色される各抗体の陽性所見が認められたが、CST欠損マウスでは両抗体とも陽性像が不均一であり樹状突起の走行が不規則であることが示唆された。またゴルジ染色を用いた解析より、CST欠損マウスプルキンエ細胞樹状突起の棘突起の形成に異常があることも明らかにした。さらに、正常マウスでは軸索のみに存在するミトコンドリアアンカリングタンパク質Syntaphilin (SNPH)がCST欠損マウスの樹状突起に侵入していることも見出した。すなわち、AGJは樹状突起の形態維持およびプルキンエ細胞の極性維持にも関与している可能性が示唆された。
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