研究課題/領域番号 |
20K06864
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
御子柴 克彦 東邦大学, 理学部, 訪問教授 (30051840)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | IP3受容体 / カルシウムイオン / LTP suppression / Depotentiation / IRBIT / CaMKIIαキナーゼ |
研究実績の概要 |
始めに、神経可塑性に関するIP3受容体 (IP3R)関連分子の役割について述べる。記憶の重要なシナプス機構としてテタヌス刺激 (high frequency stimuli (HFS): 100 Hz、100 パルス)による長期増強 (LTP)がある。一方LTPを消去する機構としてHFSの60分後のlow frequency stimuli (LFS; 1 Hz、1000パルス)はLTPを逆転させる (Depotentiation [DP])。また60分前に与えたLFSはLTP誘導を抑制 (LTP suppression)する。研究代表者らはLTPを消去するDPとLTP suppressionはIP3Rにより実行されるシナプス可塑性である事を示した。 IRBITは、IP3によりIP3RのIP3結合部位から放出される分子として研究代表者らが発見し命名した分子である。 そこで、研究代表者らが作成したIRBITKOマウスの海馬CA1ニューロンにおけるDPおよびLTP suppressionについて検討した (Learning & Memory 2022)。プライミング刺激中またはプライミング後に放出されたIRBITが、IP3Rの活性化を阻害し、CaMKIIαキナーゼを阻害することを明らかにした。IP3Rs-IRBIT-calcineurinの系がAMPARsと繋がる一方IP3R活性の低下はPKCを介してGABAAR活性 (クラスタリングを介して)を低下させてLTPの誘導を行う。IRBITKOマウスではLTPには差が無かったが、DPおよびLTP suppressionが減弱された。 以上、海馬CA1ニューロンのシナプス可塑性はプライミング刺激を受けた後にCaMKIIαキナーゼ活性、IP3R活性、 GABAAR活性の制御を介してLTP発現の方向を決定する事が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最近IP3受容体が正常のみならず、『がん、神経変性症、老化、認知症、運動失調、精神神経疾患』などの病気を含む生命現象の様々な局面で重要な働きをしていることが明らかとなってきている。 その中で本年はまず学習、記憶の過程で重要な神経可塑性の基礎的な機構解明を進めた結果、研究実績に記載した通り、研究は順調に進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
IP3受容体カルシウムシグナルの働きを、正常、病気両面から明らかにするため、今後は正常の解析と並行して外界からのストレスが働いた場合の生体の応答に関するメカニズムの解明を目指してゆく。ストレス応答にはERストレス、Apopotitcストレス応答などが起きて神経変性症や精神神経疾患を含む障害が起きるが、生体にはそれらの疾患から逃れる為の防御機構が働く。その防御機構にIP3受容体を中心とする関連分子がどの様に働くかを明らかにするために、細胞レベルと個体レベルでの研究を進める。その為にERストレス応答とApoptoticストレス応答のメカニズム解明の為の抗体の購入を進めた。特に研究を効率良く進める為の共同研究を展開する為に、共同研究者と緊密な連絡をとっている段階である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年はCOVID-19変異型によるパンデミックのため、国からの外出制限の指示や出入国制限等により、研究代表者自身の研究活動及び中国-日本間の移動が困難となる時期が続いた。そのため、東邦大学においては、通常の実験に必要な試薬の購入等について十分な動きが確保できず、次年度使用額が生じた。2022年度の未使用額については、物品の購入(試薬・消耗品等)、研究の打ち合わせのための旅費、論文発表に関する費用(論文投稿料・英文校正料・印刷費等)、共同研究者に向けた研究試料の発送費用に使用する予定である。
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