研究課題/領域番号 |
20K06869
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
侯 旭濱 新潟大学, 医歯学系, 助教 (00584765)
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研究分担者 |
菱田 竜一 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (90313551)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 抑制性ニューロン / 樹状突起 / 電流源密度 / 視覚弁別記憶課題 / Coactosin / アクチン重合 / 超解像顕微鏡(SIM) |
研究実績の概要 |
抑制性ニューロンは形態や機能により十種類以上の細胞種に分類され、特性に合わせて異なる情報伝達の分岐点として働く。すなわち、個々の経験によって抑制性ニューロンの分化に偏りが生じると、臨界期の回路形成や、後の情報処理に影響を与えると推測される。これまでに、抑制性ニューロンの多様な細胞種を規定する仕組みは分かっておらず、さらに分化に偏りが生じた際の弊害も明らかになっていない。これまでに、申請者は、生後に発現する抑制性ニューロンの新規形態分化因子を同定しており、神経樹状突起や軸索伸長のアクチン細胞骨格制御因子の動きを超高解像で可視化に成功した。また、脳深部の単一細胞に遺伝子を導入する方法を開発し、経験依存的な仕組みを分子発生学の視点から解明した。抑制性ニューロンの特性の変化は、双極性抑制性ニューロンを増加させ、臨界期だけでなく視覚の情報処理にまで広く影響を与えると推測される。本研究において申請者らは、新規アクチン重合因子がPV細胞の多極性樹状突起の特性の獲得に必須であることを見出した。このアクチン重合因子を欠損させると、PV細胞の形態特性(多極性)が、他の抑制性ニューロンの形態特性(双極性)に転換される。この際、電気生理学解析(whole-cell パッチクランプ法)を行うと、PV細胞の機能特性(低い入力抵抗)が、他の双極性抑制性ニューロンの機能特性(高い入力抵抗)に転換されることが分かった。加えて、新規アクチン重合因子の作用メカニズムを超解像度顕微鏡により解析することにより、この因子の細胞内での局所的な蓄積が、アクチン重合を促し、蓄積した部位からの突起の伸長を誘導することを観察した。さらに、抑制性ニューロン樹状突起の形態変化による視覚弁別能力の向上を見出した。本研究において、生後における経験依存的な抑制性ニューロンの形態・機能形成に基づく局所回路及び情報処理の様式について明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抑制性細胞の形態と機能の特性は、細胞種を判別する最終的な指標となる。一方で、形態と機能がどのように影響しあうのか不明な点も多い。本年度は、前年度までわかっていた形態特性の転換が、機能特性と密接に結びつくこと、その結果として、PV細胞を特徴づける形態および機能が他の抑制性ニューロン細胞種に近づき、細胞の特性が転換することを発見した。この結果は、当該研究テーマの仮説をサポートする期待通りの内容であり、細胞の樹状突起形態と生理機能の連係、および生後経験と運命決定の連係をはっきりと示す意義のある結果であることから、進捗状況の区分(2)を選択している。さらに、抑制性細胞サブタイプ特異的にAAV-GCaMP6を感染させ、課題遂行中の細胞の発火様式を微小カメラカルシウムイメージング法により解析できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
PV細胞の特性の変化は、双極性抑制性ニューロンを増加させ、臨界期だけでなく視覚の情報処理にまで広く影響を与えると推測される。抑制性細胞サブタイプ特異的にAAV-GCaMP6を感染させ、課題遂行中の細胞の発火様式を微小カメラカルシウムイメージング法により解析する。また、AAV-ChR2/Archを感染させ、局所回路を強制的に活性化/不活性化することで、認知能力や社会行動にどのように影響を及ぼすのかを明らかにする。また、周数領域解析を行い、総合的に局所回路への影響を解析する。 双極性PV細胞が弁別に関与するのかを明らかにするために弁別記憶課題を行う。さらに、高次連合野からのフィードバック調節が、一次視覚野を制御し、視覚応答の情報処理に寄与することに注目する。研究分担者ら開発した経頭蓋フラビン蛋白蛍光法を用 い、図形と音の連想記憶を獲得したマウスの応答を記録する。双極性PV細胞を構成する神経回路において、AAV-ChR2/Arch(共同研究)を感染させ、感覚統合の高次認知機能への影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は前年度に実施した視覚弁別課題に加え、視覚情報と選択ルール(形、明暗など)を容易に変更でき、弁別だけでなく、記憶やルール変更に対する適応も課題内容に加える。PV細胞の特性の変化は、双極性抑制性ニューロンを増加させ、臨界期だけでなく視覚の情報処理にまで広く影響を与えると推測される。そこで 、皮質全層を網羅する多チャンネル電極を用い、視覚誘発電位及び単一細胞記録を行う。各層における視覚誘発電位の変化から電流源密度を推 定することで、皮質全層にわたる情報伝達の流れ(sink/source)を捉える。さらに 、同時計測した単一細胞記録から、PV細胞の発火頻度を抽出し、電流源密度との関連を検討する。また、LFPからγ―帯域などの周波数領域解 析を行い、総合的に局所回路への影響を解析する。 これまでの報告から、光遺伝学による前頭前野の活性化は、視覚野細胞性質転換により視覚の弁別課題(Go/No-go)の正答率を向上させる。そこで、抑制性細胞サブタイプ特異的にAAV-GCaMP6を感染させ、課題遂行中の細胞の発火様式を微小カメラカルシウムイメージング法により解析する。また、AAV-ChR2/Archを感染させ、局所回路を強制的に活性化/不活性化することで、認知能力や社会行動にどのように影響を及ぼすのかを明らかにする。
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