研究課題/領域番号 |
20K06870
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
塚田 祐基 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (80580000)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経回路 / シナプス / 配線 / レーザー手術 / 光遺伝学 / 光操作技術 |
研究実績の概要 |
本研究では、神経回路に対して光を用いたマイクロ-ナノメートル単位の時空間操作を行い、その影響を神経活動と個体行動の計測として定量することで、神経回路の構造が回路全体の機能においてもつ役割の理解を進めることを目的とする。 本研究は共焦点顕微鏡を用いた微細な光操作を中心に実験を進めているが、実験手技の熟練を重ねることにより、安定した結果が得られるようになってきた。またレーザー手術の際に神経再生などの現象が付帯して起こることが新たにわかったが、これについても実験を重ねるごとに知見がたまり、当初の研究目標に合った、神経再生がない実験条件を設定することができるようになった。さらに、パルス光の利用などで個体へのダメージを少なく抑えた上で実験を実施するなどの改善も多く取り入れることができた。これらの進捗を基に、神経回路の構造を光操作した後の神経活動と行動の計測、解析を進めている。 前年度の成果により、3色の蛍光分子を用いた、シナプスを可視化した上でのレーザー手術や、個別のシナプスを狙った光抑制の実験が可能になり、それらの方法により実験の最終段階に到達した。一方で、個別のシナプス抑制は効果が大きくないため、条件によっては個体差との区別をするために統計解析を駆使する必要があることが分かり、実験条件の精査と統計解析に必要な量の実験データを収集している。 また研究計画段階で予想されなかった派生的な成果として、神経回路への操作が神経再生など、回路構造自体へ影響するという実験結果も得ている。柔軟な神経回路の特性としての、この予想外の発見の意義も明らかにしつつある。さらに理論的な進捗として、情報理論的なモデルを構築することで行動の制御原理を解析するアプローチを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに作成したminiSOGの異所局在を抑えたインテグラントや、三色蛍光イメージングが行える遺伝子導入系統を用いることで、研究目的に掲げている、神経回路に対して光を用いたマイクロ-ナノメートル単位の時空間操作を行い、その影響を神経活動と個体行動の計測として定量する実験を進めることができた。 miniSOGを用いた個別シナプスへの光抑制については、単一シナプスへの抑制の場合はその影響が少なく、また個体差との区別をするために統計解析を利用し、適切な数の実験データを取得するなどの必要条件が明確になった。さらに1, 2, 3,..など抑制するシナプス数やその組み合わせを考慮すると必要な実験が多くなるため、効率的に実験を行う計画を進めている。抑制後のカルシウムイメージングは、操作にかかる時間や設備の占有時間が長くなるため、効率を上げる改善が望ましいが、実験の質自体は十分で、最低限、計画している実験を実施できることが確認できている。 レーザー手術を用いた実験については、三色イメージングができる系統を用いて、シナプスの位置を把握した上でフェムトセカンドレーザーを用いた神経繊維の切断手術を行い、任意のシナプスのみ接続している状態での神経活動の計測と行動の計測を行えることが確認できた。レーザー手術を行った上で、カルシウムイメージングと行動計測を進めており、研究の最終段階に近づいている。 予想外の成果として、これまでに頭部神経は再生しないという報告があったものの、条件によっては再生することが発見された。また再生の様式もこれまで報告されているものとは異なる興味深いものであるため、これについても探究を進めている。 また実験で得られたデータの解析を進めるために数理モデルを構築する段階に入り、infotaxisと呼ばれる情報論的なモデルを用いて解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
実験方法の整備や試料の作成、実施条件の検討が計画通りに進んでいるため、当初計画通り、個別のシナプスが抑制されたときの、複数のシナプスにより接続している二つの神経細胞間の情報伝達の変化を計測し、その仕組みについて数理モデルを利用することにより解析する。さらに当初計画にはなかった頭部神経細胞の再生様式について、新たな知見が得られつつあるため、これについても実験を進める。 miniSOGを用いた光抑制実験は、シナプスの組み合わせによる実験条件が多いため、ある程度組み合わせをまとめた上で実験を行い、変化のある部分を見極めてから個別のシナプス抑制を行う。また、個別のシナプス抑制の影響の大きさについても、統計的な実験計画を熟慮した上で、試行回数などの計画を立て、網羅的に実験を実施する。 レーザー手術を用いた実験については、頭部の神経細胞においても再生が起きない条件を既に同定しており、その他の実験条件も前年までの研究により整理されているため、これを踏まえて実験を進め、さらに変異体を用いた実験も盛り込むことで、作業仮説の検証を進める。 得られつつある計測データを解析する数理モデルについては、前年までの進捗を踏まえ、infotaxisを基にしたモデルの発展を進める。情報理論の専門家の意見も取り入れつつ、独自のモデルを構築することで、これまでに行った実験と合った解析を進める。またこれに伴い、これまで神経活動を中心に計測していたが、行動のデータも数理モデルに合わせた形で計測を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍での物流の遅延や納品の延期に加え、学会の延期、出張の制限など使用予定であった経費の利用が延期せざるを得なくなったため次年度使用額が生じた。次年度では、NEURO2022神経科学大会でシンポジウムを企画するなど、コロナ禍で抑えられていた活動を再開する。また学会での情報交換を踏まえて、実験に加えて論文・学会発表の機会を増やし、最終年度として適切な経費の使用を進める。
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