研究課題/領域番号 |
20K06872
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
臼井 紀好 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (00784076)
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研究分担者 |
島田 昌一 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (20216063)
近藤 誠 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (50633012)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会性行動 / 衝動性リスク行動 / 反復行動 / 認知行動 / 大脳皮質 / ミクログリア / オリゴデンドロサイト / RNA-seq |
研究実績の概要 |
本研究は社会性行動を制御する分子機構の解明を目指す研究である。令和2年度は、社会性行動に関わる遺伝子として同定したS1遺伝子のノックアウトマウスの解析を行った。解析は7週齢の雄マウスを用い、コントロールマウスには同腹の野生型マウスを用いた。 始めにS1ノックアウトマウスの行動解析を行った。コントロールマウスと比較して、S1ノックアウトマウスは社会性認知行動の低下、反復行動の増加、衝動性リスク行動の増加、認知機能の低下を示した。これらの結果から、S1ノックアウトマウスが自閉スペクトラム症様の行動異常と統合失調症様の行動異常を示すことを見出した。 次に脳組織の解析を行った。S1ノックアウトマウスの脳はコントロールマウスと比較して小さく、大脳皮質のボリューム低下が示唆された。大脳皮質の層特異的な抗体を用いて定量を行った結果、S1ノックアウトマウスでは大脳皮質6層が薄層化していることを見出した。また、大脳皮質の上層でIba1陽性ミクログリアの数が増加しており、大脳皮質全体ではPDGFRα陽性のオリゴデンドロサイト前駆細胞、APC陽性のオリゴデンドロサイトの数が低下することも見出した。 遺伝子発現解析ではS1ノックアウトマウスの前頭皮質を用いたmRNA-seqを行った。コントロールマウスの前頭皮質と比較して、有意に発現が変動した遺伝子を533個同定した。ジーンオントロジー解析の結果、これらの遺伝子は神経発生・発達とミエリン形成に関わっていることが示唆された。また、先行研究で報告のある自閉スペクトラム症、及び統合失調症患者において発現が変動した遺伝子群とも有意にオーバーラップすることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ計画通りに進捗している。行動解析と脳の組織解析では予想外の発見もあったので今後詳細な解析を計画していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は大脳皮質を中心とした解析を行ったので、次年度以降は大脳皮質以外で社会性行動に関わる脳部位についても解析を行う予定である。また、遺伝子発現解析の結果、ミエリン形成の異常が示唆されたので、S1ノックアウトマウスのミエリン形成についても引き続き解析を進めて行く計画である。電子顕微鏡を用いた髄鞘の解析も計画している。 さらに、S1ノックアウトマウスの表現型をレスキューするための候補遺伝子の探索を行う。遺伝子発現解析についてはネットワーク解析、エンリッチメント解析を行い、S1遺伝子の標的遺伝子を多角的に絞り込む計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナによる影響で当初計画していた実験や学会等のスケジュール変更を余儀なくされたため予算執行が計画通りに行かなかった。次年度使用額については令和2年度に見出した知見を発展させるために必要な試薬等の費用として使用する予定である。
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