研究課題
本研究は社会性行動を制御する分子機構の解明を目指す研究である。令和3年度は社会性行動に関わる遺伝子として同定したS1遺伝子のノックアウトマウス及びヘテロマウスの解析を行った。解析は7週齢の雄マウスを用い、コントロールマウスには同腹の野生型マウスを用いた。 S1ノックアウトマウスの行動解析は昨年度行ったので、令和3年度はS1ヘテロマウスの行動解析を行った。コントロールマウスと比較して、S1ヘテロマウスは社会性認知の低下、反復行動の増加、を示した。しかし、S1ノックアウトマウスとは異なり、動性リスク行動は示さなかった。これらの結果から、S1ヘテロマウスが自閉スペクトラム症様行動を示すことを見出した。また、S1ノックアウトマウスでは令和3年度に大脳皮質の解析を行ったため、線条体の解析を行った。S1ノックアウトマウスでは線条体のボリュームが減少しており、線条体の機能異常が衝動性リスク行動に関係している可能性が示唆された。現在はS1ノックアウトマウスの線条体の解析を行っている段階である。大脳皮質については新たに神経細胞の軸索起始部の解析を行ったところ、S1ノックアウトマウスでは前頭皮質と体性感覚野の神経細胞における軸索起始部の長さが減少しており、これらの神経細胞の活動異常が社会性行動の障害に関与している可能性が示唆された。近年、自閉スペクトラム症者においてS1遺伝子の変異が同定された。この変異を再現するS1遺伝子の変異コンストラクトを作製し、発現を確認したところS1遺伝子の顕著な発現低下を見出した。この発現量はS1ヘテロマウスにおけるS1遺伝子の発現量と類似していた。現在はS1ヘテロマウスの脳組織の解析を行っており、S1ノックアウトマウスと同様の表現型を示すか解析している。大脳皮質のミエリン形成、ゴルジ染色によるスパインの定量、大脳皮質の層構造について免疫染色を行い、現在は定量中である。
2: おおむね順調に進展している
現在のところ計画通りに進捗している。令和3年度はS1ヘテロマウスの表現型と自閉スペクトラム症者での変異体の表現型を新たに見出すことができた。また、S1ノックアウトマウスの大脳皮質において軸索起始部の異常を見出すことができた。
S1ノックアウトマウスでは線条体の組織学的解析を中心に、脳内モノアミンの定量を行い、社会性行動や衝動性リスク行動との関連性を明らかにしていく。大脳皮質ではミエリン形成が障害されていたので線条体のミエリン形成について解析を行い、S1ノックアウトマウスの表現型から社会性の神経基盤を明らかにしていく。さらに、S1ヘテロマウスにおいても社会性行動の障害、反復行動の増加といった自閉スペクトラム症様行動が観察されたので、S1ノックアウトマウスの表現型を参考に大脳皮質の組織学的解析を行っていく。また、自閉スペクトラム症者における変異の解析では、転写因子としての機能が障害されていないか、変異体の細胞内局在や遺伝子発現に与える影響を解析していく。
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