脳における神経回路形成には出生前の発生プログラム、出生後の経験依存性の両方が関わることが知られている。私はマウス大脳皮質バレル野4層において、同一神経幹細胞由来の神経細胞間では高い双方向性結合が形成されることを明らかにし、個々の神経細胞間の結合性が発生プログラムにおける神経細胞系譜依存性(クローン性)を持つことを明らかにしてきた。更にこの発生プログラムによるクローン性神経細胞間での高い双方向性結合が、出生後の経験にも依存していることを新たに発見した。本研究課題の目的は、生後の感覚遮断がクローン性神経細胞間特異的に双向性結合形成を阻害する分子メカニズムを明らかにすることである。最終年度、以下の研究を実施した。 ①クローン性神経細胞間選択的にサイレントシナプスが形成されているかをパッチクランプダブルホールセル記録法により検証した。クローン性神経細胞を可視化するためにGFPを発現するiPS細胞を野生型マウスの胚盤胞へ1細胞移植しキメラマウスを作製し、生後14日齢のキメラマウス大脳皮質バレル野4層のクローン性のある興奮性神経細胞からダブルホールセル記録を行い、サイレントシナプスの有無を検証した。その結果、AMPA受容体応答がまったくなくNMDA受容体応答だけ検出される、というサイレントシナプスの頻度は低く、ほとんどのシナプスにAMPA受容体が発現している可能性が考えられた。そのため電気生理学的なサイレントシナプスの定義は、AMPA受容体応答・NMDA受容体応答比として示す必要性があることがわかった。 ②freeze-fractureレプリカラベリング法により生後14日齢のマウス大脳皮質バレル野4層の興奮性シナプスにおけるcPcdhの発現を検証した。その結果、cPcdhは興奮性シナプスに発現するPSD95と共局在することがわかった。
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