研究課題/領域番号 |
20K06875
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
堅田 明子 九州大学, 医学研究院, 助教 (00615685)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / 分化 / エピジェネティクス / 運命決定 |
研究実績の概要 |
胎生期の神経幹細胞は発生の進行に伴い、ニューロンからグリアへと分化する細胞を変換させていく。同様の性質変化はin vitro培養においても認められ、胎生期の神経幹細胞は培養を繰り返すうちにニューロン分化能を低下させるため、ニューロン産生能を保持した品質の高い神経幹細胞を長期に維持することは現状難しい。研究代表者はNeurog1など、ニューロン分化に重要な複数の転写因子の近傍に、発生の進行に伴い、遺伝子発現抑制の指標となるDNAメチル化修飾を高頻度に獲得する領域があることを見出した。これらの領域は、胎生期神経幹細胞のin vitro培養によっても高度にメチル化修飾が導入されることから、培養に伴うニューロン産生能の低下と関連する可能性が考えられた。In silico ChIP解析により、これらDNAメチル化獲得領域に結合することが予測される因子として、いくつかの転写抑制因子を見出したため、これら候補因子の機能解析を進めることで、神経幹細胞の発生段階依存的な細胞運命の決定に、これらDNAメチル化獲得領域のエピジェネティック修飾変化が関わるかを検証する。さらに、これらニューロン分化誘導因子の近傍に認められたDNAメチル化獲得領域(遺伝子発現制御領域)のエピジェネティック変化を阻止することで、さまざまなサブタイプのニューロン産生能を保持した高品質な神経幹細胞を長期に渡って維持する培養法を提案することを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バイオインフォマティクス解析により、DNAメチル化獲得領域に結合する候補因子としてTrim28を同定、神経幹細胞におけるTrim28のノックダウンにより、Neurog1の発現量上昇とニューロン産生能の上昇を確認した。また、クロマチン免疫沈降実験により、Neurog1のエンハンサー領域にTrim28が結合することを明らかにした。Trim28の発現量を解析した結果、ニューロン産生能が高い発生中期とグリア産生能が高い発生後期、いずれにおいても変わらず発現は高いが、翻訳後修飾であるSumo化レベルが胎生後期で著しく上昇していることを見出した。Trim28のスモ化は、転写抑制に機能するNuRD複合体との相互作用に重要であることが報告されており、Trim28の修飾レベルが神経幹細胞の分化制御に関わる結果を得ている。この他にも昨年末には、神経幹細胞の骨形成因子(BMP)刺激が、胎生中期にはニューロン分化を、後期ではアストロサイト分化を誘導する事に着目し、BMPの下流転写因子であるSmadの結合領域を網羅的に解析した成果をGenes & Development誌に発表した。胎生期神経幹細胞が発生の進行に伴いSmad認識配列のクロマチンアクセサビリティーを変換させ、細胞の分化運命を制御する様を明らかにした。神経幹細胞の運命変換を担うゲノムワイドな解明が順調に進められている。
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今後の研究の推進方策 |
胎生中期と後期ではTrim28のスモ化修飾が大きく異なることが明らかとなった。そこで、スモ化修飾サイトであるリジンをアルギニンに置換したTrim28変異体を作製、これを胎生中期神経幹細胞に過剰発現させ、in vitro培養した際の神経幹細胞の分化細胞種を評価することで、Trim28のSumo化修飾と神経幹細胞の分化運命との相関を探る。また、Trim28のスモ化を誘導する上流因子、上流シグナルの解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、国際学会への参加を見送った。次年度、現地開催となれば、その旅費に、もしくは物品費にあてる。
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