研究課題/領域番号 |
20K06879
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
村部 直之 帝京大学, 医学部, 講師 (90348813)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 皮質脊髄路 / 精緻化 / 腰髄 / 頸髄 / 神経解剖 / 神経発達 |
研究実績の概要 |
マウスの皮質脊髄路は、他の神経回路同様、過剰投射・シナプス形成過程の後、軸索撤退・シナプス除去等により精緻化する。本研究では、成体では後肢の運動制御に関与する皮質脊髄ニューロンが発達初期には頸髄に投射し、前肢の運動制御に関与する可能性を検証することが目的である。そのために、以下の3つの柱に分けて研究を進めている。(1) 後肢支配領野の皮質脊髄ニューロンが頸髄から撤退する時期を特定する。(2)幼若頸髄に投射した後肢支配領野の皮質脊髄ニューロンが成体では腰髄へ投射することを示す。(3) 予定後肢支配領野の皮質脊髄ニューロンが前肢運動制御に関与することを示す。 2021年度は、幼若期に頸髄に投射した皮質脊髄ニューロンが成体では腰髄に投射することを示す解剖学的知見の論文執筆に着手した(2)(近日投稿予定)。次に、幼若期の予定後肢野への皮質内微小刺激をおこなうために、成体脳と幼若脳の空間的対応づけを行った。生後7日齢のマウスの脳定位装置で座標を記録した大脳皮質の複数箇所に蛍光標識トレーサーを注入し成体で検出することで成体後肢領野となる予定後肢領域を特定した(3)。(2)の解析過程で幼若頸髄に投射した皮質脊髄ニューロンのうち、成体で脊髄背側に投射するものは、脊髄灰白質の長軸方向に神経線維を伸長する投射様式という新知見を得た。この発見は従来の皮質脊髄ニューロンの投射様式の概念とは大きく異なるので、皮質脊髄線維の方向性を定量的に解析した。本研究成果は第99回日本生理学会大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要(1)に関する実験をやり残しているが概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
頸髄へ過剰投射した皮質脊髄軸索の撤退時期を決定する実験を継続し、例数の蓄積および日齢の追加をする。現在2時点(生後14日齢および28日齢、2例追加;21齢 5例分)(1)。次に、幼若期の予定後肢野への皮質内微小刺激をおこない、予定後肢野皮質脊髄ニューロンが前肢運動制御に関与するか検証する予定である(3)。幼若頸髄に投射しかつその後シナプス除去する皮質脊髄ニューロンには、前腕筋運動ニューロンと直接シナプス結合する集団が含まれる。この皮質脊髄ニューロンの一部が成体で腰髄へ投射する可能性があり、それを検証する。幼若運動ニューロンと直接シナプス結合する皮質脊髄ニューロンを成体まで長期間標識するために、2つの戦略を並行して用いる。第一の戦略では、逆行性かつ経シナプス性に輸送される性質をもつ小麦由来レクチン(WGA)を逆行性経シナプス性トレーサーとして用いる。WGAとCreの融合タンパク質(WGA-Cre)を発現するAAVを幼若期に筋肉注射により末梢から前腕筋運動ニューロン特異的に発現させ逆行性経シナプス性輸送によりシナプス前細胞にWGA-Creを輸送させる。第二の戦略では、幼若前腕筋運動ニューロンプールに限局したAAV-Creの微量注入により、前腕筋運動ニューロンと直接シナプス結合するシナプス前細胞にCreを発現させる。両戦略とも、Cre依存的発現を示す蛍光タンパク質をコードするAAVを成体の後肢領野に注入することにより、幼若期の運動ニューロンのシナプス前細胞の中でも皮質脊髄ニューロンのみを順行性に可視化する (2)。また、幼若頸髄に投射履歴のある皮質脊髄ニューロンの中で脊髄背側へ投射する皮質脊髄ニューロンの軸索が脊髄長軸方向に走行するという新知見に対し、幼若頸髄に投射履歴のある皮質脊髄ニューロン固有の特徴なのか、脊髄背側へ投射する皮質脊髄ニューロン共通の特徴なのか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に脳定位装置、微量注入装置および実体顕微鏡を購入予定であったが、極微量注入をする必要やウイルス注入および皮質内微小刺激等の複数の目的に汎用できる実体顕微鏡を導入したいので慎重に選定を進めており、次年度使用となった。2022年度も継続して動物実験を行う予定であり、それに付随する実験器具、動物、ウイルス等に支出する予定である。また、頸髄から腰髄までの脊髄の画像データは1個体あたりテラバイトという巨大データであり、画像処理・解析高性能コンピュータの導入により解析効率を高める。
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