研究課題
本研究計画においては、われわれが見出したアルツハイマー病原因分子APPの細胞内輸送調節分子yata、および前頭側頭型認知症の原因分子VCPについて、遺伝学的な手法を用いて、神経変性疾患関連分子の細胞内局在異常が神経変性および脂質代謝異常を引き起こす分子機序を明らかにすることを目指している。本研究においては、前頭側頭型認知症の原因分子であるVCPについて、ショウジョウバエモデルとマウスモデルの2種類の動物モデル用いた解析を行い、疾患の発症機序の解明を目指してきた。これまでに、マウスモデルを用いた解析から、VCP変異ノックインで病気に似た症状(脳萎縮・TDP43蓄積など)が生じること、発生期から神経幹細胞の細胞周期の異常が生じること、および老年期に発症する疾患の原因が発生期の異常にあることを示唆する結果が得られている。これに対して、ショウジョウバエVCPモデルを用いた解析からも、マウスモデルのデータと整合性があり、さらに相互補完的なデータが得られている。今後は、論文出版したデータを踏まえて、研究をさらに進めていく予定である。また、yata変異体についても、さまざまな遺伝子型について、脂肪滴形成異常および脳の形態異常の表現型の定量的な記載的解析を進めており、それを踏まえた遺伝的レスキュー実験を進めてきている。特に、yata変異体とApp; yata二重変異体の表現型を比較し、表現型に有意な増悪が見られるかどうかを調べている。今後は、遺伝学的解析をさらに進めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
前頭側頭型認知症の原因分子であるVCPについて、ショウジョウバエモデルとマウスモデルを用いた解析を進めており、このうちマウスモデルのデータを中心とした知見を原著論文として報告することができた。さらに、それ以外のデータについても、原著論文の出版を目指して研究を進めている。
今後は、yata変異体について、脳萎縮、脂肪滴形成異常、およびその他の表現型がどのような分子機序によって生み出されるのかを、種々の分子を用いた遺伝的レスキュー実験によって明らかにしていこうとしている。特に、COPIの局在調節に関わるYATAの分子機能が、アルツハイマー病に関わる種々の分子の細胞内輸送調節にいかに関わり、それがいかにしてyata変異体の表現型と関わっているのかを明らかにしていく。前頭側頭型認知症の原因分子についても、原著論文として出版したデータを踏まえて、解析をさらに進めていく予定である。
コロナウイルス感染症の影響が生じたことなど、研究の進捗の都合により、消耗品の購入額が予想よりも少なくなった。次年度においては、ショウジョウバエの交雑実験および表現型解析実験をさらに進めていくために、繰り越した研究費を用いて、ショウジョウバエ飼育チューブ、エサ材料、分子生物学実験用試薬類、抗体類などの消耗品を購入していく予定でいる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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