研究実績の概要 |
神経細胞の軸索終末から放出された興奮性伝達物質グルタミン酸(Glu)は、シナプス後膜のグルタミン酸受容体を活性化させた後、グルタミン酸輸送体(興奮性アミノ酸輸送体 excitatory amino acid transporter, EAAT)によって、後シナプス神経や近傍のグリア細胞(アストロサイト)に回収される。これまでに、小脳プルキンエ細胞に発現するグルタミン酸輸送体(EAAT4サブタイプ)は、生理的濃度のエタノール(25-100 mM)によって輸送機能(ターンオーバー:輸送行程の回転速度)が亢進し、登上線維伝達物質Gluのシナプス外拡散を抑制することを見出している。
エタノールがEAATの機能を亢進する作用の分子的背景を明らかにするため、細胞内シグナル伝達機構に焦点を当て、薬理学的手法による検討を行った。EAATの機能は、光パルス(430 nm, 5 ms)の照射に伴い光解除性物質(RuBi-glutamate)から遊離したGluが、EAATを介してプルキンエ細胞に取り込まれることにより発生する電流(photo-uncaging evoked transporter current, PTC)を用いて評価した。エタノール(50 mM)は、PTCの減衰時間を可逆的に増大させた。エタノールのPTC増強作用は、タンパク質キナーゼ C(protein kinase C, PKC)阻害薬 GF109203XならびにPI3キナーゼ(phosphatidylinositol 3-kinase)阻害薬 wortmanninにより消失した。一方、PKCを活性化させる作用があるホルボールエステル(PDBu, PMA)にPTC増強作用は認められなかった。エタノールがEAAT機能亢進作用を発現するには、PKCやPI3キナーゼの活性が必要であることを示唆している。しかし、PKCの機能を促進してもエタノールの作用は再現できなかったことから、PKCは「EAATのGlu輸送速度を制御するメカニズムの維持」に関わるなど、補助的な位置付けにあると推定される。
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