研究課題/領域番号 |
20K06886
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
田谷 真一郎 藤田医科大学, 精神・神経病態解明センター, 准教授 (60362232)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | てんかん / 手術切除脳 / mTOR |
研究実績の概要 |
てんかんは、人口の約1%が罹患する精神疾患であり、遺伝要因と環境要因が複雑に関係するとされている。てんかん発作の原因は、神経回路網形成異常に起因する神経細胞の過剰発火とされているが、発症機構は不明な点が多い。申請者らは“てんかん自然発症ラット(IER)”の原因遺伝子としてDSCAML1を同定した。IERではSNP変異によりDSCAML1 mRNAのスプライシングに異常をきたし、蛋白質が殆ど作られていない。以上の結果から、DSCAML1の機能欠損がてんかんの発症に関与する可能性が示唆された。さらに、細胞接着分子DSCAML1の機能解析をするために、結合蛋白質のプロテオミクス解析した結果、てんかん発症関連分子mTORを同定した。すでに、IERではmTORシグナルが亢進していることを見出している。また、細胞レベルではDSCAML1がmTOR自体の活性には影響を与えず、下流のmTORC1を抑制することを見出した。本研究では、DSCAML1によるmTORシグナルの活性制御機構を明らかにする。さらに、所属機関のバイオリソースを活用し、特に本年はMAPKシグナル亢進が原因とされている低悪性度脳腫瘍(Low-grade developmental and epilepsy-associated tumors:LEAT)患者の手術切除脳を用いて、DSCAML1の発現量とmTORやMAPKシグナル活性の相関関係を解析する。具体的にはRNAシークエンスによる網羅的な解析、mTORシグナル活性の指標となるmTOR基質分子のリン酸化状態のモニタリングを行う。その結果、「DSCAML1異常に起因するmTORシグナル亢進型てんかん」という新たなてんかんのタイプを提唱することを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)DSCAML1によるmTOR制御機構の解析:DSCAML1の細胞内ドメインが切断され、核に以降して何らかの分子の転写を介してmTORシグナルを抑制している可能性を見出した。DSCAML1はDSCAM familyに属しているが他の相同性の高い分子にはmTOR抑制効果が認められなかった。そこでDSCAML1に特有の配列のみを細胞に発現させるとmTOR抑制効果を有していることが明らかになった。 (2)LEAT患者由来の外科的手術脳の解析: LEATは分子生物学的にBRAF変異型、FGFRs変異型、その他に分類できる。本研究では、サンガー法と次世代シークエンサーを用いてBRAF、FGFRs遺伝子の解析を行った。その結果、BRAF変異型、FGFRs変異型、その他に分類した。次に、遺伝子型を元にRNAシークエンスを行った。コントロールには、海馬硬化症の手術の際に除去する側頭葉先端領域を用いた。Heat-map解析により、コントロール、BRAF変異型、FGFRs変異型に遺伝子発現の違いで分けられることが明らかになった。RNAシークエンスの結果より、遺伝子発現が上昇/減少した分子に着目し、蛋白質レベルでの変化をウエスタンブロットで解析した。その結果、複数のLEATの新規マーカー分子候補を見出した。次に、mTOR、MAPK経路の活性化をモニタリングした。mTOR経路の活性化の指標となっているmTOR、S6、4EBP1、Aktなどのリン酸化状態とMAPK経路の活性化の指標となっているERKのリン酸化状態を、ウエスタンブロットで解析した。その結果、mTOR、MAPKシグナルが亢進している検体を複数同定することができた。現在、DSCAML1発現との因果関係を調べている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)DSCAML1によるmTOR制御機構の解析:DSCAML1の転写制御によるmTORシグナルの制御機構の可能性が示唆された。そこで、DSCAML1安定発現株の培養細胞とDSCAML1 KOマウスのRNAシークエンスを行ったので、解析を進める。 (2)LEAT患者由来の外科的手術脳の解析:発現増加した分子として補体系に関する遺伝子が複数認められた。補体は自己産生されるが、腫瘍からも産生する。過剰の補体は神経細胞を攻撃してしまう。近年、補体の遺伝子多型の減少が統合失調症発症に関与することが報告された。そこで、RT-PCRで遺伝子多型を調べる。発現減少した分子はてんかんとの関連が報告されている分子を選択し検証する。さらに、ホルマリン固定している検体を免疫染色することで組織学的にも検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が年度内に国立精神・神経医療研究センターから藤田医科大学に移動になり移動、実験の立ち上げ等により研究をストップせざるを得なかった。加えて、人員不足のため前任のバイオバンクから検体の納期未定と連絡が届いた。そこで、脳脊髄液から切除脳を用いた解析に切り替え、結果が2023年2月になってしまったため、費用の執行が遅なった。今回の解析で多数のてんかん発症関連候補分子を同定した。その検証実験には複数の抗体が必要になる。そのために、本研究費を使用したいと考えている。本解析は、本研究テーマに添った解析であるため、基金の期間延長制度を利用したいと考えている。
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