軸索内に散在する停止型ミトコンドリアは、局所的に必要なATPを供給することで軸索形態の維持に重要な役割を担うと考えられる。このため、停止型ミトコ ンドリアの分布を調節するシステムが存在すると予想されるが、その実態は不明である。前年度までの研究結果により、ミトコンドリアが産生するATPの濃度勾配に従って軸索内のミトコンドリアを均等に分布させる機構の存在が示唆された。その機構として、ATPの下流における局所的なシグナルの変化や、ATPによるモーター因子の直接的な制御が想定される。そのため、ATPに関連した因子としてAMP/ATP比の上昇により活性化するAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の阻害剤、及びATPとの直接的相互作用により活性化するATP受容体(P2プリン受容体)の阻害剤を投与した神経細胞においてミトコンドリアの運動性を解析したが、有意な変化は検出されなかった。これらの結果から、ATPを介した細胞内のシグナル因子の局所的な活性の変化ではなく、ATP濃度の上昇によりモーター因子の直接的な制御によりミトコンドリアの運動性が変化する機構を想定した。しかし、ATP濃度の小さい変化がミトコンドリアの運動性を変化させるのに十分であるのかという問題がある。停止型ミトコンドリアが微小管から解離する際には、複数のモーター因子がATPと結合し、協調的に駆動される必要があると考えられるが、数理モデルにおいては、このような条件においてミトコンドリアがより均等に分布がすることが示され、モデルの妥当性が示唆された。
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